表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/138

未來 十四 過去の記憶と共に

 時子(ときこ)が持ち直すと紅時に深々と頭を下げた。


 其の所作(ショサ)に紅時は首を振った。彼女の痛みだけではないのだからだ。


 言葉は無意味だ。(あき)は思った。継一(つぐいち)と目が合ったが微妙な表情をしていた。


 秋と紅時は伊藤の家を恨んではいない。二人して決めた事だ。長い時間が必要だったが(つぐ)の幸せを望んだ結果だった。


「時子さんを攻めるつもりは有りません。其れに私の命と新しい赤子の命を二つも助けて下さいました。」


 紅時は凛として居る。


「俺からも礼を云わせてくれ。啓之助(けいのすけ)と外で待っている時、生きた心地がしなかった……。もう駄目だと産婆から云われた時に奥さんが来てくれた……。何か分からないが必ず助けると聞こえて安心した。月を見ながら待ったのだよ。奥さんにありがとうを云わなくてはならない……。」


 時子が秋を見詰めた時に、涙が自然と流れた。


「不謹慎かも知れないけど……。私の知らない彼だわ……。パパ、ありがとう……。」


 時子が云った意味が分からなかった秋。


「時子。悪いが……。れいわの秋継(あきつぐ)に話し掛け無いでくれ……。(ハラワタ)が煮えくり返る。」


 継一が渋い顔をした。


「そうね。過ぎた事だものね……。今の旦那様は継一様だものね……。御免なさい。私も過去に囚われているのね。最初から最後まで恥ずかしい限りだわ。」


其処(ソコ)で時子さん達にも御願いがあります。」


 紅時は微笑んで秋を見た。紅時から離れて自席で汁物を飲んでいた。もう話は終わったと思っている様だった。


「時子さんなら覚えていると思いますが……。時宮 紅(ときみや こう)紅隆(こうりゅう)の記憶を取り戻す為、令和の時代で行った事をもう一度やりたいと思っています。」


「秋さんに記憶を甦らせるのですか……。」


 時子が困惑していた。継一も事態が飲み込めず不振な顔をした。


「いいえ……。確かに過去の記憶に関係しますが……。今回は晴と眠りたいと思います。唯一記憶もない晴でなくてはなりません。なるべく早く記憶の交換をしたいと思います。令和の晴は全く過去の記憶を持っていませんでした。仮説ですが、今回、初めて先生である明継が継であり、紅隆の時代に出て来ました。」


「晴は明継が絞首刑にされる過去には出て来ないと云う事だな。」


 継一が頷いた。


「分岐点となった場所に晴は居ます。過去、未來、今に……。なので彼を通して、明継と紅隆を逃がす今である現代にしたいと思っています。」


 継一が眉をしかめた。


「其の様な事は可能なのか……。一番難しい道を開くのは、晴か……。何処(ドコ)で繋がるのだ。れいわはもう終わった時代だろう。過去と今をどう繋げるのだ……。」


「夢を使います。夢は過去も、未來も関係ないですから……。」


 継一が納得出来ないと顔に書いてある。晴を見据えて問う。


「晴はどうしたい……。危険はないだろうけど、失敗はするかもしれない。」


「明継叔父さんが逃げたのだから成功してるのでは、無いですか……。未来を変える必要はないです。もう、既に決まっているのですから……。」


 紅時は晴を見た。


「多分大丈夫よ。逃亡する今を変える訳ではないわ。」


 啓之助が頷いた。


「紅時の頼みだ。やってやれ。」


「啓叔父さんは紅時さんの話なら何でも聞くでしょ……。其の上名前呼びになってるし……。」


「当たり前だ。御前はもう隠す必要のない人物だ。明継に会い、紅隆も知っている。彼らは秋と紅時の前世に会ったのだぞ。もう何が変わると云うのだ。」


 時子が不思議そうに顔をしかめた。


「今が理想の未來なら夢を使わなくていいのでは、ないの……。」


 継一が頷いた。


「もう確定している人生ではないのか……。ならば手を加えない方が良いのでないか……。」


 紅時が強く頷いた。秋と顔を見合せると赤子の泣き声がしていた。


 元気な男の子の声に紅時が立ち上がって、(フスマ)を開いた。


 婆が申し訳なさそうに(フスマ)に近付いてから、頭を下げた。


「御乳をの時間です。大分、我慢なさったのですよ。坊っちゃん。」


 紅時に赤子を託すと婆が去ろうとする。


「待って。隣の和室に蒲団(フトン)を二重、用意して下さい。私が眠って居る間此の子を御願いします。もし又、乳の時間になったら、胸をはだいて上げて下さいね。長い事眠りに付きますから……。」


 秋が続く。


「俺からも御願いする。紅時のしたい様にさせてくれないか……。」


 継一が疑いながらも時子を見た。


「夢に意味があるのか……。私には明継が投獄された過去しかない。れいわには、行っていない。確かに秋と紅時だけ何度も過去を繰り返していたからなのか……。其の回りで私達も巻き込まれたと云う事か……。」


 赤子を抱いた紅時が微笑んだ。泣いている子をあやしながら部屋を出た。


「解決する為に過去に戻ります。大丈夫。必ず成功させて此の子の元に帰って来ます。」


 小袖を翻して紅時は秋に微笑んだ。

 後の話は、全ては彼にしてある様だった。






 紅時はが居なくなった場所で秋が晴を睨んだ。


「晴は紅時と同じ意見か……。紅時は必ず晴が家に来る事を知っている様だった。まるで、竹馬の友に会う気持ちで待っていた。妻の待ち人が此の様な子供だとは思わなかったよ。れいわではとても世話になったらしいな。だが晴が紅時と記憶を辿るような真似をしたくないなら、止めない。俺は今の幸せが一番大切だ。此れ以上の幸福感はない。二人目も産まれた。名前は紅時が決める。過去を見てから名前を付けるつもりらしい。だから早く終わらせて、もしくは中止して欲しい。」


 晴が正座した(ママ)動かないで聞いて居た。


「紅時さんと生活してみて分かった気がするよ。彼女の勘は間違っていない。もし紅時さんと過去を旅しなければ、今が……明継叔父さんが逃亡した過去がないのでは、ありませんか……。ならば、此の行動に価値がある気がします。僕ではならない理由があるのでしょう。」


 継一が口を挟んだ。


「危険はないと思うが、成功したとして我々の今に影響はあるのか……。」


 秋が顔をしかめた。


「影響がないとは云いきれない。れいわの時子、佐波、時継には、倫敦(ロンドン)に逃げてからの記憶が曖昧にしか出て来なかった。だから確定してるのは、明継と紅の遺骨を連れた修一(しゅういち)に会うだけだった。此れにも意味があると紅時は云ってる。だが紅時しか知らない理由だがな……。」


 晴は頭を上げながら茶をイッキ飲みした。


「ならば、早い方が良いでしょう。紅時さんと夢を共有します。」


 秋が頷くと胸元から手拭いに何かを包んで居る物を出した。


 晴に近付くと手渡す。

 銀色に輝くペーパーナイフだった。高価な物だと直ぐに解る。


「枕の下に入れて眠りなさい。晴を助ける物だと紅時は云ってる。」


「解りました。何が何だか分からない(ママ)ですが……。御付き合いしますよ。」


 晴は頷いて女の着物の帯に挟んだ。


「膳は婆が仕舞う。紅時の元のに行こう。」


 二人を追い掛け様に啓之助が懐中時計を渡して、無言で帯の隙間に挟んだ。


「高価な物だから起きたら返せよ。常継(つねつぐ)時継(ときつぐ)に貰った物だから、必ず手渡しで返してくれ。」


「父上と時継叔父さんの贈り物ですか……。何の祝いです……。」


「祝言の祝いだ。」


 バツの悪そうな顔を啓之助はしている。


「解りました。」


 廊下を継一と時子が啓之助の後ろから歩いて来る。二人とも複雑な顔をしているが、否定的な顔をしていなかった。



 部屋を替えると紅時は赤子に授乳をしていた。

 蒲団に足を崩しながら、背を伸ばして座っている。

 まだ、日が高いので乳がもろに見えている。


 啓之助と継一が秋の動作で外に出た。彼女の体を見みせるつもりはないと顔に書いている。


「僕は良いのですか……。」


「晴は蒲団に入って眠る準備をしろ。大丈夫だ。何かあったら無理やり起こすからな。」


 晴は時計とペーパーナイフを枕の下に忍ばせた。布に包んだ(ママ)である。

 蒲団を肩まで掛けると目を(ツブ)った。


 晴は寝れる気配がしない。


「紅時は大丈夫か……。」


 秋が紅時の髪に触れた。

 赤子が必死で乳を吸っている姿を、二人で微笑んだ。


「何かありましたら時子さんを頼って下さい。婆も子供には慣れている筈です。」


 秋が頷くと紅時の枕の下に手拭いに包んだ何かを入れた。


 赤子が満腹で目が(ウツ)ら儚らしている。秋が抱き上げると肩に乗せてゲップをさせ様と背中を擦った。赤子から小さな声がする。


「紅時。行ってこい。晴を頼む。」


 紅時は口を真一文字にして頷いて蒲団に潜った。

 長い眠りに入って行った。


話に違和感や異なった点がありましたら、感想や誤字報告をお願いします。次は、最終章です。複線回収頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルフアポリスにも登録しています。 cont_access.php?citi_cont_id=675770802&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ