未來 十二 昔語り 13 (子の成長 )
時間は緩やかに流れた。
継が、よちよちと歩き初めてのから数日経った。
「かしゃー」と云いながら、紅時の後を追いかけた。
火を使っている時は危ないので秋が体ごと抱き締めて話をしている。
母親の後追いが激しく秋から暴れて腕からずり落ち様としている継を笑いながら、立ち上がって抱き締めていた。
「あさげ迄待っていてね。」
紅時が土間で忙しくなく動いている。
鍋から湯気が上がって味噌をときながら、小口葱を落とす。
二人は同じ女性を待っていた。
「まんまが出来る迄の我慢だ。継の好きなでんでん太鼓だぞ。」
秋が片手に持った玩具を継の視界に入れたが、海老ぞりして息子は抵抗した。無駄な足掻きだか秋の力が勝って居るのはいう迄もない。
婆が汚れた襁褓を盥に持ちながら秋を見た。
「坊っちゃん。代わりましょうか……。」
頭の上まで登りそうな勢いの継を抱き止めながら、笑っていた。
「元気な証拠だよ。今のうちに泣かせておかないと夜に紅時がずっと抱いていなくては、いけないから良いのだよ。まだ朝早いからぐずるのは仕方ないさ。」
「坊っちゃんは、思っていたより子煩悩でしたね。」
秋の顔を笑いながら婆が汚れ物を持って外に出て行った。
米が炊ける匂いと、味噌の香りがしてくる。
沢庵を切る小気味良い音がする。もう少しで、朝飯が出来ると分かった。
紅時がおひつにご飯を入れ菜物をお盆に乗せた。
秋の隣を紅時が通り過ぎようとして、継がぐずった。
「紅時。交換してくれ。」
秋が継を下に下ろすと紅時の足に小さな手が握り締めた。
「かしゃ。か~しゃん。」
体をずらしたくても紅時には見えない。
秋がお盆を持つと足にすがり付くわが子が居た。泣き腫らしてぐちゃぐちゃな顔になっている。
紅時は手拭いで継の顔を拭うと、継は満面の笑みになった。
両手で抱えると、全体重を乗せて肩に顔を埋めた。
「人見知りが激しいですね。父くらい懐けば良いのに……。」
「其れでも可愛いさ。男だがら母を取られるのが嫌なのだよ。もう少し大きく為れば俺と遊んでくれる様になる。其れ迄は紅時を独占させておくさ……。」
秋が飯を持って先に進んでゆく。紅時は諦めて継を抱っこした侭、秋の後ろを歩いた。
背の低い机の前の近くで継が遊ばない様に、回りの景色を見せて居た。
秋が食材を運び終わるとみんなで座った。
継の前にはお椀の粥がよそられている。紅時は木のシャモジを握らせると継の口にスプーンで掬って粥を食べさせた。
紅時が木で作ったスプーンだった。秋用、自分用、継用、婆用に大きさを変えて作ってある。
離乳食には使いやすい。紅時なりに満足した作りになった。
秋が其の姿を微笑みながら見ている。
「そろそろ普通の飯でも大丈夫ではないか……。」
「継はまだ歯が生え揃っていないので、咀嚼は無理ですよ。食べれてプリンやゼリーとか柔らかい物なら大丈夫でしょうが……。」
秋が考えてから話した。
「ああ。都市部で流行している食べ物か……。子供に食べさせるには高価ではないか……。」
「原材料は卵ですから我が家でも出来ます。只、牛乳が必要ですね。山羊の乳では生臭過ぎて子供が食べません。ゼリーなら寒天があれば、冬場なら作れますね。果物の汁は蜜柑で良いです。」
「紅時は料理になると妥協がないな……。」
「美味しいものを食べて頂きたいだけです。」
継が口を開けた侭、ぐずった。
「あっ、ごめんね。」
粥を掬うと継の口に持って行った。
飲み込む様に食べると紅時が微笑んだ。
母親が菜物を自分の口に入れて、繊維を噛み千切ってから、スプーンに乗せて継の口に入れた。当たり前の様に継は食べたている。
「やはり、衛生的に嫌なのですが……。口移し。でも、すり鉢に入れて、磨り潰すだけの時間がないのですよ。婆が家事を半分受け持ってくれるので贅沢なのは分かりるのですが……。」
「俺も紅時も小さい時は口移しだったのだろう……。なら、仕方がない。子育てに違いがあるのか……。」
「全然違います。大変なのは変わりがありませんが、ベビー用品がないのが驚きです。肌着まで手縫いになるとは思いませんでした。」
紅時が粥を食べさせている。
秋は大人用に味付けられた菜物を食べる。濃いめの味付けに紅時の気遣いが伺えた。
「ベビー用品とはどの様な物だ……。軍事転用出来そうなら、継一に知らせなくてはな。」
「私が話した事で未来が代わるのは嫌なのですが……。」
「紅時に未来を変えるだけの発案はないだろう。身の回りの物を使い勝手が良くなる位の工夫にしているではないか……。」
「秋さん達が関わるのは天都の執行部達です。政に関わるので未来が変化していると思います。だから先生と紅隆は倫敦に逃げられるのだと思います。」
「まあ其の先生はもう居ないのだかな……。」
紅時は寂そうな表情をした。
「大丈夫だ。紅時が心配する事ではない。婆に継を預けて畑へ行こう。」
秋が食事に手を付け始めた。
継にゆっくりと飯を食べさせてている紅時が継の顔を見た。まだあどけない息子に、先生の顔が似ている。
ああやはり息子は、明継なのだと思い知らされるだけだった。
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