夢で思い出したヒロイン
フィーネ回です。
「ははは、アニキごめんね。まさかあんなにクリーンヒットするなんて」
「勝手にドアを開けたこととか、状況も知らずにいきなり蹴ったことに対する謝罪は無いのか?」
「高1であんなことしたら駄目だよね?むしろ止めたことを褒めてほしいんだけど?」
「それもそうだな」
そもそもカレンが俺の部屋のドアを勝手に開けることとかよくあることだもんな。
「旦那様、普通はノックをするべきではないでしょうか?」
「うちは声をかけたと同時に開けるパターンが多い、というか開けられるパターンが多いからな」
マリア姉さんもカレンも『自分の部屋に来るときもそうしていいから』なんて言ってるけど、やれないって。
「わかりました。それが綿山家の作法でしたら、わたくしもそのようにいたします」
「大丈夫よ。実際に勝手に開けられているのはレイジくんだけだから」
「いえ、わたくしも見られて恥ずかしいことなど…あ、あの、やっぱり何とかなりませんでしょうか?」
フィーネはスマホで怪しいサイト見ているらしいから、急にドアが開いたら困るよな。
「じゃあ、アニキの部屋以外はノックをするということで」
「いいわよね、レイジくん」
「いや、俺の部屋もノックしてほしいんだけど」
嫁が100人居るなら、なおの事『平穏』も欲しいよ。
「それならレイジくんの部屋にも必ずノックをすることにしましょう」
「えー?癖になってるから忘れそうなんだけど」
「カレンちゃん。もし勝手にドアを開けて『困ったこと』になったら、責任を取れるのかしら?」
「困ったことって何よ、お姉ちゃん」
「だから…が…の時に開けて…が…になったら、カレンが責任を持ってレイジくんの…を…にしないといけないのよ」
「にゃ、にゃあああっ?!」
マリア姉さんに何を言われたか知らないけど、カレンが真っ赤になってる。
「いったい何を言ったのじゃ?」
久遠、聞くのかそれっ?!
「だから、レイジくんが着替えている時に開けて下着姿が丸見えになったら、カレンが責任を持ってレイジくんの下着姿の記憶を無かったことにしないといけないのよ」
「そ、そ、そうなのよ!そうなったら自分の頭にかかと落としをして忘れるからねっ!」
カレンはすごく体柔らかいから実際にできるかもしれないな。
ちょっと見てみたい気もする。
それはそれとして、今日の夜ご飯はカレーなんだけど、いつもと違う本格的な味だ。
「スパイスを配合するところからやってみたのじゃ」
「久遠って料理できるんだな」
「失礼じゃぞ。母上に家事はしっかり習ったのじゃ」
「レイジくんにお嫁入するために頑張ってたのよね」
「マリア義姉上、恥ずかしいからあまり言わないでほしいのじゃ」
「照れてる久遠ちゃんって可愛いわあ」
久遠は俺と同い年らしいけど小柄だから本当に可愛らしいんだよな。
「今夜はかなみさんは居ないんだな」
「『USA・ラッシー!』に出るって言ってたのじゃ」
「『USA・ラッシー!』って、ラッシーセブンの人気バラエティ番組じゃないか!」
7人のゲストがラッシーセブンという7人組の人気グループとアメリカンな対決をする番組だ。
「『荒野の早撃ちガマン』のコーナーが好きだな」
「奇遇じゃの。わらわもそうじゃ」
久遠も普通にテレビとか見ていたらしいから、こういう話も普通に合うんだよな。
「放映日いつかな?楽しみだな」
みんながお風呂から出た頃にかなみさんが帰ってきた。
「ただいまダーリン!…あっ、ごめん!あたし汗臭いだろ?」
「いや、かなみさん…お前の汗ならむしろかがせてくれ」
くんかくんか
「いやあ、ダーリン恥ずかしいよお…お風呂沸いてる?」
「追い炊きしておいたよ!」
「カレンちゃん、ありがとうなっ!」
「あとで『USA・ラッシー!』の話も聞かせてね!」
「ああ。今回は最高だったぜっ!」
カレンとかなみさんはどっちもボーイッシュで活発だから気が合うみたいで良かったな。
「ところでレイジ」
「何だい、久遠?」
「お風呂はレイジの希望通りに1人で入ってもらったのじゃが、添い寝は一緒でもかまわんじゃろうな?」
それがあったか!
「旦那様、わたくしが右手側、かなみさんが左手側に寝させていただきます」
え?もう決まってるの?
「わらわは上じゃ」
上って何?!
「『間』でもいいのじゃが、それじゃとフィーネやかなみと争いになるのじゃ」
「争いというか、できれば一晩のうちに順番にお願いできればと…」
そう言って頬を染めるフィーネ。
それってまさか『足の間』ってこと?!
じゃあいったい上って…
寝る時間になり、俺の部屋にパジャマ姿の久遠とフィーネとかなみさんがやってきた。
エッチなネグリジェとかじゃなくて良かったけど、みんな美少女だからパジャマ姿でも十分にドキドキしてしまう。
「パジャマの色は違うけど、おそろいなのか?」
デザインは一緒の色違いみたいだ。
「勝負寝間着は二人っきりの時用に取っておくのじゃ。だからこれはわらわたちの『制服』のようなものじゃの」
どうやら優劣を付けないために同じ寝間着にするらしい。
「じゃあ寝るか」
久遠の術で3倍に広がったベッドの上で俺が寝て、右側にフィーネ、左側にかなみさんが寝ている。
そして久遠は俺のお腹の上で寝ている…狐の姿で丸まって。
「これなら問題ないのじゃ」
狐の姿になると服が消えるから、せっかくの可愛いパジャマがもったいないなあ。
「旦那様、腕枕をしていただいてよろしいでしょうか?」
そう言われてフィーネに腕枕をしたら、そのまま俺の顔のすぐそばまで頭を移動させてきた。
「それじゃあ肩枕になるぞ」
「このほうが旦那様のお顔が近くで拝見できますわ」
そんなにじっと見られると恥ずかしいんだが。
「あたしはこうやって寝たいんだ」
かなみさんは俺の左手を自分の右手とつないで…しかも恋人つなぎにしている。
「へへっ。いつか人前でもこうやってつなげるようになりたいな」
いたずらっぽく笑うかなみさんは年上なのに可愛いと思えてしまう。
「くー」
久遠はもう寝ていた。
寝息も可愛いんだな。
俺もベッドに入るとすぐに寝るタイプなんだが、今日はドキドキしすぎて寝付けない。
とか思っている間に寝ていた。
『ブレード&アックス』
俺が中1の時に流行った家庭用ゲーム機のRPG。
そのゲームをしていた時の夢を見ていた。
舞台は異世界。
勇者になって仲間を増やし、大魔王を倒すもよし。
王家に仕えて騎士となり、姫の心を射止めるもよし。
通りすがりの世直し人になって、各地の困っている人たちを助けて歩くもよし。
そして農民や大魔王にすらなることができる。
そんな自由度の高いゲームで、俺は冒険者としてプレイしていた。
本来ならパーティを組むのだが、ゲーム内で現実より先に仲間ができるのが何だか悲しくて、ずっとソロでプレイしていた。
そしてあるイベントが発生する。
『さらわれたエルフの王女を救い出せ』
パーティを組んでいない俺には難易度の高いイベントだったが、何とか王女を救い出した。
しかしそれはそもそも『絶対に王女が助からない』というストーリーのイベントだった。
救い出した王女は俺をかばって敵の矢にあたり、死を待つばかりとなる。
「もうわたくしは助かりません」
「死ぬな!」
回復魔法もアイテムも一切効かない。
効かないように『設定』されているからだ。
「わたくしはもう死にます。その代わりにこれを差し上げます」
それはソロの冒険者には必須ともいえる、殺された時に壊れた装備もろとも完全復活できる究極の回復アイテム。
俺はそれを受取ろうとはしなかった。
「私はもう駄目です。早く受け取ってください」
「いや、まだ方法はある」
俺はゲーム機の電源を落とした。
これで彼女は死ぬことは無くなった。
それから2度とそのゲームをすることはなかった。
「…てください」
「ん?」
「旦那様、起きてください」
「フィーネ?」
すでに久遠とかなみさんの姿は無く、ベッドの脇に跪いたフィーネが俺を起こしてくれていた。
「夢か…」
「旦那様、どんな夢をご覧になられたのですか?」
「昔やってたゲームで…」
俺は夢の内容を話して聞かせる。
「絶対に死ぬイベントを回避するためにゲームをやめるとか、旦那様らしいですわ」
「そうかな?すごく馬鹿っぽくないか?」
「そんなことありませんわ!そんなことをしてくださったのは旦那様だけ、いや…」
「冒険者ゼロ・オクロックだけですわ」
「!」
ゼロ・オクロックとは『0時』つまり俺の名前レイジのもじりで、あのゲームのキャラクターに付けていた名前だ。
俺は驚いて飛び起きるとフィーネを見つめる。
「ようやく、あの時に助けていただいたお礼が出来ますわ」
「まさか、あのゲームのエルフの姫がフィーネなのか?」
そんなことがありえるのか?
「冒険者ゼロ・オクロックよ。よくぞわたくしを助けてくださいました」
フィーネの手のひらに指輪が現れた。
その指輪を見てあのゲームをしていたころの記憶がよみがえってくる。
これは究極の回復アイテム『エリクサーリング』だ!
「救い出していただいたお礼にこのアイテムを差し上げますわ」
そう言って、フィーネは指輪を俺の手に握らせた。
そしてそのまま手を引き寄せるようにして顔を近づけてくる。
「そして時を止めてわたくしの死を無くして下さったお礼に」
「わたくし自身を捧げましょう」
ちゅっ
どちらからともなく、一瞬触れただけの軽いキスをしてしまう。
「「あっ」」
すぐにお互いものすごく気まずい雰囲気になる。
「ご、ごめん。キスする気はなかったというか…」
「す、すみません。つい雰囲気に流されて旦那様の唇を…」
また目が合う。
「フィーネ」
「は、はいっ」
「この指輪はフィーネがはめてくれるか?」
「えっ?!どうしてですの?!それは旦那様のものですわ!」
「今度フィーネに何かあったら、もう時間を止められないから」
俺はフィーネの左手を取る。
「フィーネを失いたくない。だから受け取ってくれるか?」
「旦那様…」
指輪をその薬指に嵌めていく。
「う、嬉しすぎます!2番目のわたくしなんかが…いいえっ!」
ばっと、手をはねのけられた。
「こんなことをしていただいて、すごく嬉しいですわ。ですけど、わたくしがここに居られるのは久遠様の奇跡のおかげですわ。そのわたくしが久遠様を差し置いてキスばかりか左手の薬指に指輪を戴くわけにはまいりませんわ」
バアンッ!
「わらわを気にすることは無いのじゃ、フィーネよ!」
「そうよ!そこは指輪をはめてもらって、今度こそ本気のキスをするのよっ!」
扉が開いて身を乗り出してそう言う久遠とかなみさん。
「レイジくん、そこは男らしく導いてあげて!」
「アニキ、そこでヘタレるとかありえないわあ」
マリア姉さんにカレンまで?!
みんな見てたのか?!
「わらわたちの間には上下関係も順番も何もないのじゃ!いい雰囲気なら一気に決めるのじゃ!」
「それに先より後の方が色々参考にさせてもらえるからな。ダーリン、あたしも指輪欲しいから今度買いに行こうぜっ!」
「レイジくん、頑張って!ちゃんとお姉ちゃんが記録してるから!(スマホ録画中)」
「アニキ、本気のキスって舌入れるの?どんな味したか教えてくれる?」
「こんな状況で、できるかああああっ!!」
俺は久遠たちを部屋の外に追い出した。
「とりあえず、右手の薬指にしようか」
「そうですわね」
「あとは一式保留で」
「はいっ。お待ちしていますわ。旦那様♡」
その輝くようなフィーネの笑顔に、俺はキスしたくなるのを必死にこらえるのだった。
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