嫁たちに篭絡される妹。
あけましておめでとうございます!
「お父様とお母様は海外勤務と伺いましたけど、何のお仕事をされていますの?」
目のやりどころに困るので再び魔法で服装を変えたフィーネがそんなことを聞いてくる。
RINEの返事に発掘だの保護だの書いてあるから、なんの仕事か想像もつかないよな。
「お父さんの仕事は『生存請負人』で、お母さんの仕事は『珍獣ハンター』だ」
「「え?」」
フィーネとかなみさんの声がハモる。
「お父さんはどんな場所からも生還させる為の仕事をしていて、お母さんは珍しい生き物を探したり保護したりする仕事をしているんだ」
「仕事は別々ですのね。てっきり同じ仕事をしていると思っていましたわ」
「お母さんの仕事の手伝いをしたのが二人の馴れ初めって聞いたけど」
付き合っていた頃の話だけで小説がひとシリーズ書けるとか言ってたよな。
「お母さんが捕獲した少女というのは珍獣に育てられた人間でしょうか?」
「発掘した少女っていうのも想像がつかないよな」
そう言うフィーネとかなみさんの2人も奥さんになるなんて想像も出来ないレベルなんだけどな。
「珍獣に育てられた少女がどんな面白い見た目をしているのか気になるのじゃ!」
狐娘の久遠がそれを言うか?
ともあれ、夕食の時間なので話は一旦切り上げて食事を作ることにした。
「あたしは今夜のライブステーションに生出演するからひとまず行くけど、絶対見てくれよな!」
「今夜のライブステーションってノーブルフェイスも出るのよね?!絶対見ないと!」
カレンはイケメン3人組のアイドル、ノーブルフェイスが大のお気に入りだ。
「じゃあ、行ってくるぜ!」
そう言ってかなみさんは『通い妻のお守り』の能力で転移して行った。
「今日はわたくしの故郷の食事を振る舞いたいですわ」
そう言ってテーブルの上にどさどさと食材を並べるフィーネ。
「え?今、どこから出したの?」
来た時からずっと手ぶらだったよね?
「アイテムボックスからですけど。日本人には馴染みのあるものと伺いましたが?」
いや、それはラノベで見るくらいだから。
「美味しそうな肉だけど、エルフも肉とか食べるんだな」
「これは牛肉の味がする巨大イノシシ『ダンブルボア』のお肉ですわ」
「巨大イノシシ?」
「味も狩りの難易度も最上の獲物ですわ」
シュンっとフィーネの手に長弓が現れる。
「わたくし、魔法だけでなく弓も得意ですのよ」
「え?フィーネが狩ってきたの?!」
「ええ、旦那様に喜んでいただきたくて」
「嬉しいけど、これからは危ないことはしないでくれよ。なんなら俺も同行するから」
「はい、旦那様。次の狩りの時は是非お付き合い下さい」
お父さんからサバイバルや護身のことは学んでるから少しは役に立てるといいな。
「それなら私と一緒に作りましょうか」
「はい、お姉様、よろしくお願いいたします」
台所はマリア姉さんとフィーネに任せて、俺たちはリビングに戻る。
カレンは自室に戻って行ったから、俺と久遠とかなみさんの二人きりだ。
「ところで、これを渡しておくのじゃ」
久遠が御札を3枚渡してくれる。
御札には『三行半』と書いてある。
「本来この巻物に書かれた相手を離縁することは出来ぬのじゃが、これを使えば可能じゃ」
「え?」
離縁?
「わらわが勝手に決めた者がレイジと相性がいいとは限らないのじゃ。それにわらわも…」
きゅっと手を握りしめて俯く久遠。
「わらわもいつ愛想を尽かされるかわからぬのじゃ。そういう時はこの御札を使って…」
「えいっ」
ばきっ!ばきばきっ!
俺は御札を木っ端微塵にする。
「な、何をするのじゃ!」
「こんなものは要らないから壊したんだ」
「何故じゃ?!気に入らない相手を離縁できるのじゃぞ!」
「俺ってそんなに偉いのか?」
「え?」
俺の真剣な表情を見て言葉を失う久遠。
「俺は100人のお嫁さんを貰うけど、王様じゃないんだ。相手が嫌だからと言って一方的に離縁なんかしないよ」
「じゃが…」
「久遠が俺の幸せのために吟味して決めてくれた嫁さんたちなんだろ?それを離縁するなんて出来ないから」
「それでもお互いに嫌いとかも有り得るのじゃ」
「それならお互いに好きになれるようにするだけじゃないか。だって久遠が選んでくれた相手はそれだけの価値がある相手なんだろ?」
「そうなのじゃが…」
「久遠とだって喧嘩したりすることもあるかもしれないけど、絶対に仲直りするから!」
俺は久遠を抱きしめる。
「は、はわっ?!急に何をするのじゃレイジ?!」
「結婚したらモフっていいって言ったよな?」
「い、今かの?!」
「もし、俺たちの仲が悪くなりそうならこうやってスキンシップすればいいんだ」
モフモフモフモフモフモフ
「は、はわっ、やめるのじゃあ!」
「やっぱり思った通り、狐耳って気持ちいいなあ」
モフモフモフモフモフモフ
「ち、力が抜けるのじゃあ」
「次はしっぽだな」
モフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフ
「はうー」
「凄いな、最高じゃないか」
ビバ狐耳!ビバ狐しっぽ!
モフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフ
「ま、待つのじゃあ」
ぽんっ!
可愛らしい音がして久遠が狐の姿になる。
「お腹も撫でてほしいのじゃあ」
そう言って仰向けになって腹を見せる狐モードの久遠。
「よし、まかせろ」
俺は久遠を抱き抱えると全身モフりまくり、お腹を重点的に触ってやる。
「はわあ、はうーん♡」
久遠は気持ちよさそうだし俺も気持ちいいからWin-Winというやつかな。
「アニキ。そろそろご飯できるって…あっ?」
俺が久遠をモフっているのを見て固まるカレン。
「アニキ、その狐って久遠さんよね?」
「うん。モフっていたんだけど、カレンもするかい?凄く気持ちいいよ」
「じゃあ、アニキは先に手伝ってきて」
「わかった」
俺はくったりとしている久遠をカレンに手渡す。
「すっごいモフモフ!えーい!」
「はううううう、はっ?!いつの間にカレンになっておるのじゃ?」
「狐しっぽ最高!」
モフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフ
「レイジ以外は駄目なのじゃ…ああっ、なんで兄妹ともに撫でるのがうまいのじゃあっ?!」
これで嫁小姑の仲が良くなると嬉しいのだが。
俺は久遠の気持ちよさげな声を聞きつつ台所へ行く。
「手伝うよ」
「旦那様!丁度出来たところですわ!」
「……」
「旦那様?」
「あ、うん」
エルフらしいライトグリーンのフリル付きエプロンを身につけたフィーネの新妻感が半端ない。
「フィーネちゃん、レイジくんはそのエプロン姿に参っちゃってるのよ」
「わたくしよりマリアお姉様の方が素敵ですわ」
マリア姉さんは胸が大きいからエプロンが似合うと言うよりも扇情的ですらある。
まあ俺は見慣れたけどね!
「フィーネは新妻って感じで凄くいいよ」
「そうですの?!嬉しいですわ!」
そのまま抱きついてくるフィーネ。
胸は慎ましいけど、そんなに抱きついたら流石に柔らかさを感じてしまうんだけど。
「レイジくん、フィーネちゃんは見た目だけじゃなくて料理の腕もいいよの」
テーブルを見るとご馳走が並んでいる。
綺麗な彩りのサラダ、スープ、そして骨付き肉。
「これってまるで漫画に出てくる骨付き肉みたいなんだけど」
「ダンブルボアの骨付き肉を魔法で整形しましたの」
魔法で整形って?
「前にレイジくんが『漫画みたいなお肉が食べたい』って言ってたでしょう?だからフィーネちゃんに頼んでみたのよ」
「フィーネの故郷の料理じゃなくて良かったの?」
「焼き方や味付けはわたくしの故郷のやり方ですの」
「うちにこれが焼ける大きなオーブンがあって良かったわ」
姉さんの言う通り、うちの台所の設備は充実している。
それは時折両親が珍しい食材を持ち帰ってくるからだ。
「凄くいい匂いだね」
「匂いだけではありませんわ。どうぞお召し上がりください」
久遠とカレンも席について5人で食事が始まる。
ぱく
「うまっ!」
サラダなのにスパイスが効いてる?!
このスープもそうだ。
スパイスが凄くうまく使われている。
「昔は狩った獲物をその場で食べることが多かったので、肉料理に対するスパイスの種類が凄く充実していますの」
「獲物は持ち帰らないの?」
「冬の寒い時期のために何日もかけて沢山獲物を狩りますの。その時に獲物の一部を食べますのよ」
「特に持ち帰りにくい内臓料理を作るためにスパイスが発達したのか」
「そうですわ!旦那様は内臓料理に抵抗はありませんの?」
「お父さんやお母さんの影響で大抵のものは食べれるよ」
カエルとかワニとかはまだマシな方で、聞いたことも無い奇っ怪なものを食べさせられたこともある。
「お肉は…うわあ、これは凄い肉汁だな」
肉汁が脂っぽくなくて旨みが強いとか、こういう所がエルフっぽいといえるのかも。
「すごい、これ美味しすぎるわ」
カレンも肉汁を皿に受けながらもりもり食べている。
「妹様。お皿に垂れた肉汁はサラダやスープに入れていただくとよろしいですわ」
なるほど。
「こうねっ!」
早速やってるカレン。
「美味しいわあ。フィーネさん、最高♡」
「妹様にも喜んでいただけて嬉しいですわ」
ピピピピッ
ピピピピッ
「アニキ、アラーム鳴ってるけど?」
「あっ、そろそろかなみさんの出る音楽番組の時間だ!」
テレビをつけてしばらくするとかなみさん達BWAの出番がやってきた。
『ヘイ!信者ども!祈ってるかいっ?!』
『『『おーーーーー!!』』』
BWAの歌が始まったが、それはさっきここで歌っていた歌だった。
ついさっきまでここで聞いていた歌がテレビでやっているのが何だか不思議な気持ちだ。
「BWAって口パク疑惑とかあったけど、あれだけ動いてホントに歌ってたのね」
そういえばそんな噂もあったよな。
曲の最後にかなみさんがアップになる。
『ダーリン、愛してるよおっ!』
ぶっ!
思わずスープを吹き出しかける俺。
「今の、明らかにレイジくんに向けて言ったわよね?」
「かなみさん、あんなこと言ってキャラ的に大丈夫なの?」
『カナミン、今日は何だかいつもと違って乙女っぽいねえ』
司会者にそう突っ込まれるかなみさん。
『もしかして恋をしたとか?』
『実は次の新曲は新妻っぽいものにしたいんだ』
ぶぶっ!
『恋人どころか新妻かい?』
『それで旦那様がテレビの向こうで見ているというフリでやってみたのさ』
『凄いねえ。お茶の間のファンの心を鷲掴みじゃないかい?』
『もう一声やってもいいかな?』
『いいとも!やってくれ』
アップになるかなみさん。
『ダーリン、あたしの初恋が実って本当に嬉しいよ!これが終わったらすぐに帰ってハグしような!』
うおおおおおっ!
「アニキ、顔が真っ赤だけど」
「う、うるさい。仕方ないだろ」
ファンの為じゃなくて、俺のために言ってくれているのが凄く感じられる。
「ただいまー!」
番組が終わって1時間もしないうちに帰ってくるきたなみさんは、予告通り俺に抱きついてきた。
「ダーリン、見てくれた?」
「もちろん!」
そう言ってかなみさんをギュッと抱き返す。
「そういうのは二人っきりの時にしてよね」
「そうそう、カレンちゃんにおみやげあるのよ」
かなみさんはかばんから取り出したCDをカレンに手渡す。
「これ、ノーブルフェイスのサイン入りCDじゃないの!」
見るとサインの他に『カレンちゃんへ』とも書いてある。
「ファンなんでしょ?新曲のCDをもらったからついでにサインしてもらったんだ」
「これってまだ発売前なんだけどいいの?うわあ、どうしよう。凄く自慢したいけど、誰かに教えたら駄目だよね?」
「あたしの名前を出されたら困るけど、知り合いにテレビ局の関係者が居るって言えばいいわよ」
「本当?!早速シオンに自慢しようっと!かなみさん、ありがとう!」
嬉しそうに部屋に戻っていくカレン。
気難しい妹が3人の嫁さんと仲良くなれたようで一安心だ。
お読みいただきありがとうございます!
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