家族と嫁たちの初顔合わせ
年末年始なので連続更新するつもりです。
どうしてこうなった。
いや、元々は俺の願い事が原因だし、100人の嫁を受け入れると宣言したのも俺だ。
久遠を責める気なんて毛頭ない。
しかし目の前の状況を見ると…。
「わらわは久遠。裏の稲荷神社の神じゃ!」
「わたくしはエルフィン王国の第六王女、フィーネ・ド・エルキュリアですわ」
「あたしはブルーウィングエンジェルスの駒井坂かなみよ!」
そして彼女たちの自己紹介を受けて無言で硬直している俺の姉のマリアと妹のカレン。
余談だが、うちの姉弟(兄妹)が全員カタカナ名なのは外国勤務の多いうちの両親が国際的な名前を子供に付けたかったせいらしい。
「すると私の夢枕に立ったのはあなたなのね、久遠ちゃん」
「そうじゃ。だからそちの願いも…」
「それ以上は言わなくていいわ」
マリア姉さんの背後にゴゴゴゴゴゴゴと擬音が浮かんでいる。
姉さんはいったいどんな願い事をしたんだ?
「あ、アニキ、おかしいって!不純だし不潔だよ!100人の嫁さんとかありえないから!」
怒ると怖いが普段は聖母のようなマリア姉さんとは対照的に活発でボーイッシュな妹のカレンは怒りをあらわにする。
「だいたいそっちの二人なんて初対面な上に王女様とトップアイドルなんでしょう?こんなアニキの嫁なんかになってもいいの?」
「わたくしは第六王女ですから、自分の望んだ相手との結婚などできないのです」
「え?今時そんな国あるの?」
「世界は広いのですよ、妹様」
金髪碧眼の美少女がにこりと微笑むと、同性であるカレンすらも頬を染めてしまう。
「じゃ、じゃあそっちはどうなのさ!スキャンダルだよ!BWAのセンターがこんな冴えないアニキと結婚するなんてさ!」
さっきから俺の扱いがひどいぞ、妹よ。
「バレなければいいのよ。でも、バレるならすごく派手にバレたいわね。ねえ、今度のドームコンサートで発表しちゃおうっか?いっそ、メンバー6人全員奥さんにしない?」
俺をBWAのファンたちに殺させる気か。
「そもそも、久遠さんのおかしな力で結婚させられてるのよね?本当に好きなの?好きって思わされてるだけじゃないの?」
「おかしな力とは心外じゃの。神の奇跡じゃぞ」
ぷうっと膨れる久遠。
「そもそも政略結婚に愛などありません。わたくしは国の守り神フェンリル様から旦那様をご紹介いただいたのです。我が国のため、この身を捧げさせていただくつもりですわ」
「国の守り神フェンリルって、そんなゲームの世界のような話があるのね」
「まあ、魔法と剣の世界ですから」
何だって?!
「変身魔法解除」
フィーネ王女が手を振り上げてそう唱えると、彼女の体が光に包まれる。
そこに現れたのは、透き通った生地を身にまとった耳の長い少女。
「エルフ?」
「うそっ?!」
フィーネ王女が穏やかに微笑む。
「はい。わたくしはエルフの国の王女なのです」
「アニキ、見たよね?今の魔法だったよね?」
「厳密には、変化の魔法を解除しただけです」
「変化の魔法って、王女様の耳が変わっただけじゃないか」
「王女様ではなく、フィーネとお呼びください、旦那様」
「じゃあフィーネ。耳くらいなら帽子で隠せばいいのに」
「何かのはずみで見えたら困りますから。それにこの衣装は嫁入り衣装ですから旦那様に一番最初にお見せしたかったのです」
そう言えば衣装も変わったんだったな。
それもスケスケのきわどい衣装に。
「エルフの王家に伝わる、相手に自分の全てを受け取っていただくという意味の衣装です。旦那様」
俺の方に向き直るフィーネ。
「不束者ですが、末永くよろしくお願いいたします」
「あっ、こちらこそよろしく」
その時久遠の持っている巻物が光り輝いたので開いてみる。
一、久遠
二、フィーネ・ド・エルキュリア
「何よそれ?」
横から覗き込んでくるカレン。
「ここに書いてある人が俺の嫁候補で、夫婦と認め合ったらここに書いてある名前が順に並び代わるんだ」
「今、私の親友の名前が見えたんだけど?」
「え?」
カレンの親友ってシオンちゃんだよな?
「これよこれ!」
七、曽根崎汐音
え?シオンちゃんってこんな名前だったの?!
「シオンは私と同い年だからね!嫁になるとかありえないから!」
確かに中2の嫁さんとかありえないよな。
「心配いらないのじゃ。レイジは世界で唯一自由な婚姻ができる権利を持っておるのじゃ」
「そんな法律ないわよね?」
「法律よりも憲法よりもずっと上の『自然の摂理』じゃ」
「じゃあこのことが誰かに知られたらどうなるのよ?」
「『そういうものだから仕方ない』と思われるのじゃ」
なんだそりゃ!
『下準備』したってそういうことなのか?
「幼い相手との婚姻や重婚に関しては法律や倫理的に文句を言われることはないのじゃが『彼女との結婚は感情的に納得いかない』ということは言われることもあるからの」
それだけでもかなりありそうなんだが。
「なるべく無用なトラブルにならないようにするのが嫁の務めじゃの」
「そうそう!だからあたしも『これ』を使ってここに来たんだぜ!」
かなみさんはポケットから取り出したお守りをみんなに見せる。
「久遠ちゃんのお母さんからもらったんだ。これさえあれば遠くに居ても一瞬でここに来られるってな!」
これは『通い妻のお守り』と言って、このお守りを握って扉をくぐると、扉をくぐる時に夫の元に転移できるそうだ。
転移場所は夫の家を選ぶことも可能で、帰宅時にもお守りを持って扉をくぐると元の場所か自分が良く記憶している場所に移動できる。
「フィーネにも渡しておくのじゃ」
「いえ、わたくしはずっとここにおりますので」
え?黒服が迎えに来るんじゃないの?
「外出時に危険が迫った時にも自動的にここに逃げられるのじゃぞ」
「それならありがたくいただきます」
大事そうに押し頂くフィーネ。
「あれ?かなみさんは?」
いつの間にか居ないぞ?
すると突然音楽が流れ始めた。
「ヘイ!信者ども!祈ってるかいっ?!」
姿は見えないがかなみさんの声が響く。
『ノッてるかい?!』じゃなくて『祈ってるかい?!』ってのがBWAのライブでの定番文句だ。
「じゃあ、行くわよ!」
バンっと扉が開け放たれて、かなみさんが姿を現す。
その姿は、歌番組で見た衣装そのものだった。
黒を基調とした衣装の背中に描かれた青い翼。
長いサイドテールを振り乱して激しく歌い踊るかなみさん。
「あれだけ激しく歌い踊っているのに綺麗な歌声なのが天使と言われる所以なんだな」
「見た目は堕天使っぽいがの」
「生歌をこんな目の前で聞けるなんて…アニキの嫁さんには勿体なさすぎるわ」
「あっりがとおっ!」
歌い終わるとマイクを高く掲げてポーズを決めてから…いそいそと音源であるスマホのスイッチをオフにする。
「余韻が台無しじゃの」
「いや、むしろ可愛いじゃない」
「本当?!」
ばっと俺に抱きついてくるかなみさん。
「嬉しい!あたしって男女どっちのファンからも『格好いい』とか『男らしい』って言われてばかりで、たまにお世辞で綺麗とか言われるけど、可愛いなんて初めて言われたわ!」
「いや、かなみさんはお世辞とか関係なく綺麗で可愛らしいから」
「もう、ダーリンには『おまえ』って呼んでほしいのに」
「え?名前とかじゃなくて?」
「『お前』とか『おい』とか雑に呼んでほしいの!」
「年上の人にそういうのは…」
「じゃあ強硬手段よ!」
ぎゅううっと抱きついてくるかなみさん。
柔らかいしいい匂いだし、あったかいし、柔らかすぎるし、色々まずいんですけど!
「かなみさん!離して!」
「…」
「かなみさん…おい!お前!離せよ!」
「はいっ!ダーリン♡」
M気質なのか?!
「なあ、ダーリン。改めてあたしのダーリンになってくれるか?」
「お願いします」
「こちらこそ、よろしくなっ!」
巻物が再び光り輝く。
一、久遠
二、フィーネ・ド・エルキュリア
三、駒井坂かなみ
「やりいっ!この3位ってヒットチャートの1位より嬉しいわっ!」
そう言ってもらえると嬉しいけど、喜びすぎだよな。
「ねえ、受けておいて何だけど、どうして俺と結婚してくれるの?」
「初恋だからな!」
「え?」
「ダーリンはあたしの初恋の相手なんだよ!あれは5年前、あたしが13歳だった頃…」
あたしはこの近所に住んでいた。
活発な今とは違っておとなしかったあたしは、同級生によくいじめられていたわ。
「それっ!」
「落ちろっ!」
下校時に公園に連れ込まれて雨上がりでドロドロになっている水たまりに叩き込まれる。
「ううう」
「こんな奴の何が天使よ!ドロドロの妖怪じゃないの!」
「明日はその制服で来いよな!来なかったら許さないから!」
「汚れが落ちないようにもっとドロドロにしてやろうぜ!」
「おい」
「え?」
「何?」
「きゃっ?」
ふいにした声にいじめっ子たちが振り向いたとたん体が宙に浮いていた。
バシャアアッ!
そのまま水たまりに叩きつけられてドロドロになるいじめっ子たち。
「いやああっ!」
「何するのよっ?!」
「えっ?子供?」
そこに立っていたのは10歳くらいの少年。
「お姉さんたち、泥遊びしてるんだよね?」
「そんなわけないわよ!」
「みんなに天使とか言われていい気になってるコイツに『制裁』をしているのよ!」
「子供は引っ込んでな!」
「ふうん」
その少年は近くにあったシーソーに手を掛ける。
バキイッ!
「「「「は?」」」」
少年の背丈は年相応の140センチ程度。
体つきも細身だ。
それがシーソーの金具をひん曲げながら『もいで』肩に担いだ。
「いじめっ子って退治しないといけないってお父さんが言ってたけど、お姉さんたちがそうなの?」
「やややややややめ」
「こ、この子、目がマジだよ」
「あ、あ、遊んでるのっ!4人で泥遊びしてるから!」
「本当?!」
急に笑顔になる少年。
「て、天使がここにもいるじゃん」
「わ、私、ちょっとキュンってきたかも」
「や、やばい道に走りそうだわ」
そしていじめっ子3人といじめられていたあたしとその少年5人で、雨の中ドロドロになって遊んだんだ。
「それから虐められなくなったのはレイジのおかげなんだ」
「そんなこともあったかなあ?」
「アニキ覚えてないの?シーソー壊したからって二人で直したことあったじゃないの!」
「あ、うん、あったよね」
「アニキ、覚えてないフリをしてたの?まさかまだその時に何かあったの?」
それ以上追及しないで欲しいのだけど。
「あの時ダーリンがあまりにも可愛すぎるから、ちょっと4人で激しくスキンシップしてしまったんだ」
「かなみさん…おい、おまえ!それ以上言うなよ!」
「はーい、ダーリン♡ああ、おまえって言われるとキュンときちゃう♡」
格好いいと評判のトップアイドルがこんな蕩けた表情するなんて誰も想像出来ないだろうな。
それとかなみの為に弁解しておくと、スキンシップと言ってもハグとかスリスリとかそんなレベルだからなっ!
これもファンに知られたら大変だけど。
「あらあら、もうラブラブなのね。ところでお姉ちゃんはレイジくんの結婚には大賛成だけどカレンはどうなの?」
「もう反対しても無駄みたいだから認めるわよ!でもお父さんとお母さんにはどう言うの?」
「それならRINEで教えておいたから、たった今返事が来たわ」
そう言ってスマホの画面を見せてくれる姉さん。
『レイちゃん、結婚おめでとう!100人もお嫁さんが来るなんて嬉しすぎるわ!ところで捕獲した少女をそちらに送るから、お嫁さんとして大切にしてあげてね』
『レイジ。結婚おめでとう嫁さん100人とかさすが俺の息子だ!ところで発掘した少女をそちらに送るから、その子も嫁さんにしてくれるか?』
「祝福してくれてはいるけど…」
『ところで』以降の文面の意味がとんでもないんだけど?!
お読みいただきありがとうございます!
ブックマークや評価や感想とかよろしくお願いいたします。