忍者の館から中世ヨーロッパへ
お待たせしました!
忍者の館は砦のような造りになっており、小さな堀や柵が付いている。
しかし数千人もの手勢を防げるようには見えない。
このままではひと揉みされて終わるだろう。
「どうして拙者一人で残ったかわかるでござるか?」
「わからないよ」
「それは、拙者が一番『傀儡の術』に長けておるからでござる!」
アヤメが両手を掲げると窓際に転がっていた死体たちが一斉に立ち上がって外の敵兵に向けて矢を射かけ始めた。
敵は撃ち返してくるが、死体は矢に貫かれてもまったく平気で射続ける。
「もう少し引き寄せたらここを爆破するでござる」
「俺の仲間が来るまで持たせられない?」
爆破のタイミングとか爆破のあとにみんなが来たら困るからな。
「お主の仲間が来れば拙者は助かるのでござるか?」
「そうだよ。だから俺も手伝うから!」
俺は赤羽幻斎のフリをした人形から忍者装束をはがす。
「な、何をしているでござるか?!それは敵兵に見せてから爆発させる予定の傀儡でござる!」
「服は現地調達って予定だったけど、死体からはぎ取った服は着たくないから貸してね」
「その服を着たら赤羽幻斎と思ってみんな群がってくるでござるぞ!」
「それならかえって引き寄せられていいじゃないか」
俺は衣装をはぎ取りながら着方を覚えてその通りに身に着ける。
「じゃあ、行ってくるね!」
「ば、馬鹿者っ!いかにお主が手練でもあの大軍を…」
そんな声を後ろに聞きつつ、俺は2階の窓から飛び出し敵陣の真っただ中に飛び降りた。
「何だこやつは?!」
「あの装束は赤羽幻斎だ!討ち取れ!」
「「「おおおおお!」」」
剣や槍を持った連中が一斉に俺に襲い掛かってくる。
俺が敵陣の真っただ中に降りたのにはいくつか理由がある。
1.同士討ちになるので弓で狙われにくい。
2.武器は現地調達。
3.カッコいい。
銀行強盗や暴力団の抗争や外国で紛争に巻き込まれた時に比べれば大したこと無いな。
何しろ飛び道具が無いんだから。
俺は突き出された槍を片手ずつで掴むと、握っていた足軽ごと振り回し始めた。
「何て力だっ?!」
「赤羽幻斎はクマをも素手で倒し立ち木もへし折ると聞いたが、本当だったのか!」
それは複数いる赤羽幻斎の中で『パワータイプ』の上忍のことなんだろうな。
とりあえず俺は主に『敵兵』を武器として振り回し、とにかく敵を吹き飛ばすことだけを考えた。
仲間を武器にされていては遠巻きにして弓を射かけるわけにもいかないだろうからな。
「ぬううっ!敵はたった一人ぞ!何をしておるか!」
あれが大将か。
どうしたものかな?
振り向くと傀儡弓兵の1人が手を振っている。
何だろ?
応援?それとも戻れってこと?
あっ、踊り始めた!
って今どきパラパラ?!
いや、むしろこの時代では最新鋭のダンスか?
ともあれみんなが来たってことか!
俺は慌てて引き上げる。
「逃がすな!弓を射かけよ!」
おっとそれはごめんだ。
俺は奪った槍を振り回して矢を叩き落としつつ撤収する。
「ただいまー」
「はわわわわわ…」
目の前に震えている明日香先輩が居た。
「ど、どうしてあんな大勢相手に戦えるのだ?!」
武人である明日香先輩も実戦ではやはり怖いんだろうな。
「トラブル体質で、こういうことには慣れているからかな?」
「アニキ!そんなことより早く脱出の準備を!」
「わかった!」
あらためてパンとブドウジュースで儀式をする。
儀式の間の時間稼ぎはマリア姉さんとフィーネがしてくれるから問題ない。
「というわけで、これを俺の体だと思って食べてね」
「ま、まさか人肉でござるか?!」
「いや、小麦で出来てるけど、『特別な忍術』を使うからそう思って食べてほしいんだ」
「で、これはいった何でござるか?」
「携帯食だと思ってもらえばいいよ」
「(ぱく)…これはうまいでござるな!」
「こっちは俺の血だと思って飲んでね」
「血でござるか?!」
「ブドウ汁だけどね」
「おお、ブドウは好物でござる!」
うまそうにブドウジュースを飲むアヤメ。
「アニキ!火矢を射かけられてる!」
「まずいでござる!館の中の火薬に引火したら爆発するでござる!」
「マリア姉さん!フィーネ!早くこれを食べて!」
一度過去に戻ったら儀式をやり直さないといけないらしいからな。
「どれを?」
「あっ、無い?!」
「うまかったでござる」
アヤメに全部飲み食いされた?!
「食べてないのは私とフィーネちゃんの他に誰?」
「あとは私よ!」
カレンもか!
「仕方ないわね。フィーネちゃんは館全体が火に包まれている幻影を掛けて時間を稼いで!」
「わかりましたわ!」
「じゃあレイジくん、失礼するわよ」
慌てて口をふさぐ俺。
その手の甲にマリア姉さんの唇がくっつく。
「キスに気づくとはやるわね、レイジくん」
「やっぱりか!」
殺気を感じたからな。
「だいたいこの年になって姉弟でキスなんて…」
ずるっ
いきなり俺の着ているものが脱がされていく。
「じゃあ『あそこから吸う』しかないわね」
「どこからだよっ!ふごっ?!」
ズキュウウウウウウウウウン!
うっかり手を離した隙にマリア姉さんに唇を奪われた?!
にゅるっ
ちゅうううううううううっ!
しゅぽんっ!
「ふう。ごちそうさま」
「舌まで入れるなんて…」
「唾液を飲まないと駄目だから仕方ないわよ。次はカレンよ」
「絶対嫌っ!」
だよねー。
「時間無いから、さっきすりむいた傷口舐めたら?」
「そのくらいなら…」
俺がさっきの戦いで擦りむいた手の甲からにじむ血をぺろぺろと舐めるカレン。
これはこれでキスよりいやらしい気がしないでもないけど。
「旦那様!わたくしもやっぱりキスがいいですわ!」
マリア姉さんとのキスを見てその気になったらしい。
「じゃあ」
「はい」
ちゅっ
れろ
ちゅむ
「も、もう充分ですわ!」
軽く舌が触れあって吸われて、真っ赤になって顔を離すフィーネ。
「アニキ、起爆装置は設置済みだよ!」
「よし、現代に戻るぞ!」
そして俺たちは手をつないで現代へと戻ったのだった。
戻ったのだった…
…
…ここってどこ?
戦国時代から戻ったつもりが、そこは『外国の街並み』だった件について。
「どうやら中世ヨーロッパみたいね」
マリア姉さん、わかるの?
「ロリな女神様に言われたわ」
『女神ロリーナよ!変態みたいに言わないで!』
「どうしてマリア姉さんに言うんだよ?」
『だってあなたに言うと怒られそうで…』
「うん、怒る♪」
殺気を込めた『笑顔』で宙を眺めるけど、女神様に俺の顔見えるのかな?
『ヒイッ』
ちゃん見えているんだな。
『ご、ごめんなさいね。でもあなたたちの手並みが鮮やかだったから』
「ジャンヌダルクも助けろと?」
『そうなのよ!』
「そうね。ジャンヌダルクなら『レイジくんの嫁にふさわしい』わね」
「『は?』」
俺と女神様の声がハモった。
「まさかタダで引き受けてもらえると思っていませんわよね?」
誰も居ない空中に向けて俺以上に殺気を込めた笑顔を見せるマリア姉さん。
『ヒイイッ!しかしジャンヌダルクは世界の至宝よ!おいそれとその辺の男の嫁にしていいものではなくて…』
「じゃあ、あなたがこっちへ来なさい」
『へ?』
「あなたが代わりにレイジくんのお嫁さんになるなら、ジャンヌダルクは救ってあげるわ」
『う…』
「じゃあ、逆にしましょう。ジャンヌダルクを救う代わりに、あなたがレイジくんの嫁になって」
『わ、わかったわよっ!それでジャンヌダルクが救われるならいいわよっ!』
俺の居ても居ないの同然に話が進むなあ。
「あら?嫌だったかしら?」
「とりあえず会ってから考えていい?」
「もちろんよ。レイジくんの気持ちが第一だもの」
「女神ロリーナの気持ちもね」
「それは問題ないわ。だってレイジくんだもの」
太陽のような微笑みでそう言ってくれるマリア姉さん。
…そういえばさっき…
「さっきのキスは不可抗力だよね?ノーカン?」
「そうね。ノーカンにしておいて。(あとできちんとやり直したいものねっ)」
「え?何?」
「何でもないわ。それより、どうするか考えないとね。そろそろ遅れてくる3人も着く頃よ」
数分後にちょっとキスしただけのフィーネが現れ、カレン、明日香先輩、アヤメが姿を現した。
どうやら俺の体細胞を取り込んだ量が多いほど時間遡行しやすいのか。
「こ、こ、こ、こ、ここはどこでござるかっ?!」
鶏みたいに驚いているアヤメ。
『ここは1431年5月30日。日本の暦で言えば永享3年よ』
「頭の中に声がっ?!これは何の術でござるか?」
「術じゃなくて、女神様だってさ」
「女神?」
『女神ロリーナよ』
「女神炉吏位奈でござるか?」
『その暴走族みたいな当て字はやめてもらえるかしら?』
「その女神様に頼まれてアヤメを助けたんだ」
「そうでござったか。女神ロリーナ殿。感謝するでござる」
『きゃああああっ、感謝されたあっ!うふふふふっ!』
姿は見えないけど、声だけでものすごく嬉しそうなのが伝わってくる
「それにしても急がないとまずいわね」
「どうしてさ、マリア姉さん?」
「先ほどの日付って、ジャンヌダルクの処刑日よ」
何でそんなこと知ってるの?
「時間が無い!すぐに打ち合わせをして、処刑場に向かうぞ!」
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