嫁が100人出来るのは避けられないらしい。
年末年始向けに新連載投下します!
よろしくお願いいたします。
神様って居るんだよ。
うちの裏のおんぼろ稲荷でもね。
『おんぼろは余計じゃ!』
そのお稲荷様に俺は願い事をしたんだ。
「裏に住む綿山レイジです!小学生になったら友達100人できますように!」
『よし、その願い叶えよう…え?声を出すなじゃと?そもそも願いを簡単に叶えたら駄目じゃと?!は、母上っ!ぶたないで欲しいのじゃ!』
そう聞こえてから子狐が社殿の中から飛び出してきて、幼稚園児だった俺はそれを思わず抱き止めてしまった。
「か、かわいい♡」
モフモフの子狐はまるでぬいぐるみのような可愛さだったが、撫でようと思う間もなく不意に厳かな声が響き渡った。
『そこな人間よ。わたくしの娘を返しなさい』
その女性の声は美しかったが、幼稚園児の俺には震えが来るほど怖かった。
「いやです!」
俺は震えながらも断った。
なぜなら腕の中の子狐は俺以上に震えていたからだ。
『返さなければ恐ろしい目に遭うぞ』
『そ、それでもだめです!』
姿は見えないが怒りがひしひしと伝わってきてものすごく怖い。
しかし俺はその子狐を手放す気はなかった。
『なんと勇気のある子供か。よろしい、それならばお主の願いはわたくしが叶えてやろう』
『待ってほしいのじゃ!』
腕の中の子狐が急にしゃべりだして驚く幼稚園児の俺。
「わらわの神社でされた願いはわらわが叶えるのじゃ!」
『久遠は今日この神社の神となったばかりで、まだ願いを叶えるのは無理であろう』
「出来るのじゃ!どんな辛い修行にも耐えて、立派な稲荷神になって、レイジとやらの願いを叶えてみせるのじゃ!」
『良くぞ言うた、我が娘よ。ならば早速戻ってくるが良い』
「レイジよ、待っておるのじゃ!きっとわらわがおぬしの願いを叶えてみせるからの!」
そう言うと子狐は社殿の中に戻っていった。
そして小学校に入学し…俺はずっとボッチだった。
中学校に入学する前日。
なんとなく裏の稲荷に来た俺の目の前に、この前に見たのよりも大きなキツネが現れた。
「待たせて悪かったのじゃ!」
突然話し出すキツネにギョッとするが、すぐにあの時の子狐が大きくなった姿だと察した。
「修行を頑張って、やっとレイジの願いを叶えられるようになったのじゃ!」
「じゃあ、もうボッチじゃなくて済むんだね!」
俺は大いに喜んだ。
「もちろんじゃ!『恋人100人』ができるからの!」
「は?」
「願いを叶えるのが遅くなったので、利子が付いたのじゃ」
「そんなの毎日修羅場じゃないかっ!」
これから中学生になる俺の精神が持つはずも無かった。
「そんな願い、叶えなくていいから!」
「待つのじゃあああっ!」
そして家に逃げ帰った俺。
中学校では友達も恋人もできずに、またしてもボッチだった。
そして高校に入学する前日。
俺は裏の稲荷でまたしても狐に出会った。
「今度こそ願いを叶えてやるのじゃ!」
目の前に現れたのは狐は狐でも狐耳の少女だった。
「えっと、もしかして君は久遠?」
「そうじゃ、久遠じゃ!」
その久遠がすごく可愛らしいので思わずドキッとしてしまう俺。
「もう恋人100人できるとか怖いのはやめてくれよ」
「大丈夫じゃ!修羅場にならないように母上にもお願いして『下準備』をしておいたのじゃ!」
『下準備』という言葉に不穏な何かを感じる俺。
「それで、ちゃんと友達100人できるのか?」
「友達ではないのじゃ」
「じゃあやっぱり恋人が100人できるのか?」
こうなったら恋人でもいい。
もうぼっちは嫌だ。
「いや、さらに利子がついて『嫁が100人できる』になったのじゃ」
「じゃあ、却下で」
おかしな願いを叶えられる前に家に帰らないと。
「それはやめておいた方がいいのじゃ」
「え?どうして?」
「そう何度も願い事を叶えることを保留することはできないのじゃ。もし今回願いが叶うのを保留にすると…」
俺は久遠の真剣な顔にごくりとつばを飲み込む。
「大学で強制的にレイジの子供が100人できるのじゃ!」
「なんでだっ!」
何それ?
恋人も嫁も居ないのに、いきなり子供が100人できるの?!
「わかった!わかったよ!それで、誰が俺の嫁になるんだよ?!」
すごく可愛い子とかだったらいいななんて思ったりする俺。
「うむ!実は何も考えておらんのじゃ!」
「えええっ?!」
まさかの無計画?!
「なんて、冗談じゃ」
「おいっ!」
ぱふっ
思わず久遠の頭を叩いたが、思っていた感触と違う。
「ん?」
「どうしたのじゃ?」
「キツネ耳ってモフモフなんだな」
「それはしっかり手入れをしておるからじゃ」
思わず久遠のしっぽに目が行く。
あれをモフれたらどんなに気持ちいいだろうか?
「久遠の耳としっぽをモフらせてくれないかな?」
「それはダメなのじゃ!わらわの耳としっぽは、そ、その、旦那様になる人のものなのじゃ!」
そう言ってモジモジする久遠がすごく可愛らしい。
「それでじゃの。嫁候補はこれを見るのじゃ!」
まるで忍者の巻物のようなものを渡される。
一、朝霧夕菜
二、本田瑠璃
︙
おおっ!一緒の高校に入る同中出身の美少女たちじゃないか!
「三人目以降は知らない名前ばかりだな」
「同学年ばかりではないのじゃ。違う学校の生徒もおるのじゃぞ」
「そうなのか」
先輩とか下級生の名前ってぼっちな俺には噂も聞けなかったから知らないなあ。
しばらく読み進めると、どこかで見たような名前が出て来た。
十九、駒井坂かなみ
こんな珍しい苗字、そう何人も居ないよな?
「久遠、この人って有名人と似た名前だね?」
「本人じゃ」
「何だってええええっ?!」
トップアイドルだろ!何でそんな人を選んでるんだよ!
そこから有名な声優や女優やスポーツ選手が並んでいる。
「これ、替えられないの?」
「ここに書いたら嫁になることが確定されるのじゃ」
いいのかこれ?
さらに外国人さんっぽいカタカナの名前まで並んでいるけど、それは全然知らない人だ。
「あれ?名前が五十までしかないけど?」
「半分はお主の意見も聞くべきかと思ったのじゃ」
「それって誰でもいいの?」
「わらわの力の及ぶ相手なら大丈夫じゃぞ」
「さっきのアイドルもそうなの?」
「あの者もこの近所の出身で、わらわの庇護下にあるのじゃ」
凄いな。
ここに書いてある人全てが久遠の庇護下なのか。
「元々この神社の神であった母上から引き継いだ者もおるのじゃがの」
「外国人っぽい名前もそうなの?」
「あれはフェンリルおばとかに頼んだのじゃ」
フェンリルってオオカミだよね?キツネの神様と何か関係あるの?
おばって親戚?
狐と狼ってイヌ科繋がり?
もしかして北欧にフェンリル稲荷みたいなのがあるとか?
「だから嫁にしたい者がいたら、わらわに言うのじゃ」
「じゃあ久遠」
「何じゃ?」
「だから久遠」
「だから何じゃと言うておる」
「だ・か・ら、久遠が嫁に欲しいんだ!」
「なんじゃと?」
俺が言った意味が分からず固まっている久遠。
その顔が次第に赤くなっていく。
「ななななななな、なんでじゃっ?!わ、わらわはキツネじゃぞ!」
「見た目はほとんど人間じゃないか」
「もちろん耳や尻尾を隠して完全な人間にもなれるのじゃが、元は狐じゃぞ!」
「いや、隠されるとモフれないじゃないか。今くらいの姿がありがたいかな」
「まさかわらわの耳としっぽが目当てなのじゃな?!」
「それもあるけど…ひとめぼれとか言ったら軽薄かな?」
「軽薄じゃ!狐の姿も含めてまだ3回しか会っておらぬのじゃぞ!この姿も今初めて見たばかりじゃろう?」
そう言いつつも真っ赤になっている久遠。
それを見て俺は全く脈が無いわけではないと自信を持つ。
「それが駄目ならもう願いを叶えなくていいから」
「ずるいのじゃ!卑怯なのじゃ!」
『久遠。そんなに言わなくても、素直にお受けしなさい』
突然、いつか聞いた女性の声がする。
「母上?!」
『あなたが幼い時にレイジさんに会ってから、すごく神としての修業をがんばっていたわね。それはどうしてかしら?』
「うっ…」
久遠の頭から湯気が立ち上る。
『レイジさん。久遠はあなたにかばってもらえて嬉しかったのよ。そしてずっとあなたのことを思って修行をしてきたの』
「そうじゃ!わらわもレイジが好きなのじゃ!わらわのほうこそ一目惚れしたのじゃ!本当は嫁100人とかは嫌なのじゃ!でも、レイジには幸せになってほしいのじゃあ!」
半泣きでそう言ってくれる久遠。
「久遠、俺の最初の嫁さんになってください」
「わらわのほうこそ、よろしくお願いするのじゃ」
俺の差し出した手を握りしめる久遠。
一、久遠
二、朝霧夕菜
三、本田瑠璃
巻物が光ったので見ると、順番が変わって、久遠が一番になっていた。
「これって?」
「出会って嫁と認め合った順に並び代わるのじゃ。一番じゃからといって一番愛する必要はないのじゃぞ。ただの整理番号じゃからの」
「でも一番近くに住んでいるから、一番一緒に居られるよね?」
「そ、それもそうじゃな」
こうして俺は16歳でありながら100人の嫁をもらうことになったのだった。
とりあえず、家族に事の次第を報告しないと。
と言っても、俺の両親は海外赴任だからうちにはお姉ちゃんと妹しか居ないんだよな。
「あれ?」
久遠(狐耳としっぽは格納中)を連れて帰宅すると、家の前にすごい高級車が停まっている。
そして俺がその横をすり抜けようとしたところで車のドアが開いた。
「綿山レイジくんだね?」
「ひゃ、ひゃいっ?!」
中から黒服のいかつい男性が出てきて変な声を上げてしまう俺。
それでも久遠はしっかり後ろに隠す。
「王女、こちらへ」
「はい」
黒服に促されて車から降りて来たのは頭にティアラを戴いた金髪碧眼の王女。
透き通るような白い肌と切れ長な目が美しい美少女だ。
「では、呼んだら迎えに来なさい」
「ははっ」
王女一人を置いて車は走り去った。
「……」
呆然と立ち尽くす俺。
「おお、お主がフェンリルおばが紹介してくれた王女じゃな?」
「はい。エルフィン王国の第六王女、フィーネ・ド・エルキュリアですわ」
エルフィン王国?
そんなのあったかな?
「北欧の小国ですから知られておりませんの」
どうやら表情で考えが読まれたらしい。
「それにしても日本語がお上手ですね」
王女の出すオーラのようなものにたじろいで思わず敬語になる俺。
「翻訳魔法を使っていますから」
「え?」
今なんて?
魔法?
聞き間違いだよな?
「とにかく中に入るのじゃ」
なぜか俺が久遠に引っ張られて家の中に入る。
「お帰り、ダーリンッ!待っていたわっ!」
玄関を開けるなり俺に抱きついてきたのは…
トップアイドルの駒井坂かなみだった。
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