Letter
冷たい風が頬を撫で、私は澄み切った空を見上げる。
屋上は空から一番近い場所だ。手を伸ばせば届きそうに思えてしまう。
「で、咲?物思いにふけっているところ悪いけど、早くそれ渡して来たら?」
隣で体育座りしながら、菜々は私を急かしてくる。私は菜々を一瞥し、同じように体育座りをして、菜々の横に座る。
「そんな簡単に渡せるわけないでしょ。だってこれを渡したら蓮が来てしまうから。」
私は頬を赤らめて、屋上に来て欲しいと書いた手紙を見つめる。
蓮は私が三年間思いを寄せている相手だ。
一年生の時に同じクラスになり、一目惚れしてしまった。そこからはずっと蓮のことを目で追うようになり、少しずつ会話も増えて今では名前で呼ぶような仲になった。
それもこれも全部菜々のおかげだ。
一年生の初めの方に菜々とは仲良くなり、色々と相談に乗ってもらった。
「菜々、本当にありがとうね。私の力だけじゃ、蓮とこんなに仲良くなれなかった。全部菜々のおかげ」
「いきなりどうしたの?咲が私にお礼言うなんて、明日は雨だね」
「私、そんな冷徹な女じゃないんだけど!」
軽いボケで菜々は私の緊張をほぐしてくれているんだと分かる。菜々は本当に優しくて最高の友達だ。
私、勇気を出さなきゃ。
「よし、私、やる。蓮の下駄箱にこれ入れてくる」
「うん、いってらっしゃい。頑張ってね」
私は菜々に見送られて、放課後の廊下を走って蓮の下駄箱まで移動する。
今日は蓮が掃除当番で帰りが遅くなることは知っていたが、下駄箱を開けてまだ靴があったのを確認するとすごく安心した。
下駄箱に屋上に来て欲しいと書いた手紙を入れてまた屋上に帰ると、そこに菜々の姿はなかった。
「あれ、菜々?どこに――」
私が最後まで言い終わる前に、後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「咲?」
心臓を握られたようなギュっとした感覚に陥りながらも振り返る。
「れ、蓮」
「おう、咲。これって咲が書いた手紙?」
蓮が手に持っていたのは、私がさっき下駄箱に入れた手紙だ。うじうじ悩んでいたら、蓮の掃除が終わっていたようだ。
ドクン、ドクン、と心臓が破裂しそうなほど激しく脈を打っている。
顔が沸騰しそうなほど熱く、蓮の顔を直視できない。
言わなきゃ、この気持ち。大切で大事なこの気持ちを。
「蓮。わ、私ね…。ずっと、ずっと、蓮のことが好きでした。一年生の時に好きになって、ずっと目で追うようになって、一緒に遊ぶようになってからもずっとドキドキしてて、この気持ちを伝えたらもうこの関係も壊れちゃうから、ずっと言えなかった。でも、でもやっぱり私は──」
抑えきれないほどの涙が頬を垂れ、最後の言葉を言う前に温かい温もりが体を覆う。
蓮の匂いだ。優しくて暖かい匂い。
「ごめん、咲。咲の気持ちに気づいてやれなくて。俺も、一年の時から咲が好きだった。でも、もし告白して振られたらもう咲と一緒にいられなくなると思うと、俺…。ごめん、咲。俺は咲のことが好きだ。俺と付き合ってほしい」
「うん、うん。蓮」
私は蓮の胸に顔をうずめて泣き続けた。
菜々、ありがとう。私、やったよ。頑張った、本当にありがとう。
「ずっと、一緒にいようね」
「おう、ずっと一緒だ」
こうして私たちは恋人になった。
絵・ときわ