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歩く女

作者: 河野章

 Y県の端には「でる」ので有名な廃倉庫がある。

 そこをとある会社が買い上げた。

 鉄筋造りの3階建て倉庫。

 買い上げた会社は1階をショールームに、2階をイベントホールに改築し、3階は一部職員の仮眠室に充てた。

 どのフロアーもだだっ広い空間で、壁や柱はなく、特に2階のイベントホールは広々と全空間を見渡せる造りだった。

 そこに、でるという。

 最初に気付いたのは その職場の男性職員だった。 一階の事務室で夜中にひとり作業をしていると、頭上をコツコツコツと歩き回る音がする。 男は忘れ物を取りに来た女性社員が二階にいるのかと思ったという。そんなことが数度続いた。

 しばらくすると今度は昼間に歩く音を聞いたと言う女性社員が現れた。

倉庫で一人棚卸をしていると、やはり頭上でコツコツコツと歩き回る音がする。高いヒールの靴を履いて広いフロアを右に左にゆっくりと何度も往復する。そういう音だった。

 女性は勇敢にもすぐに音がした階上へと階段を登ってみたのだったが、がらんとしたイベントホールには、ひとっこひとりいなかったのである

 これは会社の中ですぐに噂となった。昼夜にお構いなく、そして一人でいても数人でいても、頭上の女はコツコツと足音を立てて歩き回る。心なしかその音は日に日に階段へ近くなっているようだった。

 あまりに不気味なので、とうとう本社の社長の耳に届くまでに噂は大きくなった。社員たちは社長を呼び出して、お祓いをして欲しいと頼み込んだ。信心深く、験をかつぐ質であったその社長は、すぐに神社へお願いをし、お祓いをした。

 日を選び、すぐにお祓いが行われた。 やってきた神主は柔和で、手際よく小さな祭壇を用意すると社員たちを揃えてお祓いをしてくれた。

 二階のお祓いをつつがなく終え、全社員を再度1階店舗に集めてお祓いをしていた時だった。店の入り口付近に集められた社員たちの頭上を、コツコツコツと女が歩き回る音がする。その音をそこにいた 全員が聞いていた。

 コツコツコツと女は右に左に、左から右に大き 動き回る。何かを迷っているような足音だった。

そしてカツンと、1階店舗へとつながる階段を静かに一段、降りる音がした。

お祓いに来た神主も含め、そこにいた全員が固唾を飲んで見守った。カツン、カツン、カツンと女がゆっくり降りてくる音がする。そして段を下りきったその後に、カツンと一際大きな音がした。それは店舗の外へ向けての一歩のようだった。そしてそれっきり、音が止んだ。

 そのお祓いが効いたのかどうかは分からないが、それからその店舗で女が歩き回ることはないという。


【end】

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