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夢現の青薔薇姫~アンデシュダール戦記~  作者: 如月 燎椰
第六章、奪還と面影と
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【ミネルヴァ2】

「初めまして、ロサのノヴァーリス姫。オレは皇国アマリリスの皇女(おうじょ)であり、嵐呼戦姫(らんこせんき)ミネルヴァだ。今回は借りを返しに来た」


 ニィタァ……という擬音がつきそうな程の邪悪そうな笑みにノヴァーリス側が警戒しているのに気付いたのか、皇国アマリリスの皇女――ミネルヴァの護衛の一人であるスザンナが「あっ、あ……っ」と声を上げる。

 彼女の太い困り眉が更に眉尻を下げた様に見えた。


「ち、違うんですぅー。ミネルヴァ様は笑顔が不得意で……!!今にも罠に嵌めて喰ってやろうか!みたいな悪魔っぽい顔してるんですけど~、これは心からの乙女の微笑みなんで――いだっ!いだだだっ!ひどぉいっ!ミネルヴァ様がほっぺ(つね)ったぁーっ!」

「スザンナ、他国の王女様の面前で恥ずかしいから黙って」


 騒がしいスザンナを諌めたのは、ミネルヴァのもう一人の護衛であるアンビアンスだ。


「……ミネルヴァ様。私がロサのノヴァーリスです。この度はわざわざダリアを越えての救援、心よりお礼申し上げます。ですが、借りとは一体なんの話でしょうか?」


 一度咳き込んでからノヴァーリスはミネルヴァの前に立ち、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめた。またミネルヴァも値踏みするような視線でノヴァーリスを見つめる。


「お主らは知らぬだろうが、先日ダリアのクライスラーと対峙していた時にな、北からクレマチスも攻めこんで来ていたのだ。窮地に陥っていたのだが、お主が流した映像のあと、ダリアが撤退して……そのままクレマチスも一戦交えたあと退いていったのだ、だから――」

「やっぱダリアが皇国(アマリリス)を本気で潰そうとしていた情報は正しかったんだな!」


 ローレルが声を上げると、ミネルヴァの細められた目が一度彼を確認するように見た。再び視線をノヴァーリスに戻す頃には、彼女は大体の仲間たちの雰囲気を感じ取ったらしい。


「……ですがそれは貴女方を助けようとしたわけでは――」

「あーもうお主もなかなかに頭が固いな!オレが借りだと思ったら借りなのだ!そして借りを返すのがオレの道理だ!」


 バシンバシンっとノヴァーリスの背中を叩くと、ミネルヴァはふんっと鼻息を荒くしてから仁王立ちのまま「ところでオレらは賓客(ひんかく)になるのではないか?喉が渇いたのだが」と大声を上げた。


「あ、あぁ。そ、そうだな。ノヴァーリス、ここは一度城下の高級宿に宿泊してもらって……」

「叔父様……。えっと……それでいいかしら?ミネルヴァ様」


 耳打ちしたレオニダスの台詞に聞き耳を立てていたミネルヴァにノヴァーリスは苦笑しながら首を傾げる。


「うむっ!問題ない!!あと、オレのことはミネルヴァと呼んでいいぞ!……ふむ、お主らも片付けなど、ごたごたがあってオレらに構うことも難しいだろう。なに、二、三日はゆっくり滞在させてもらうさ。このスザンナの魔力が回復せぬことには、ダリアは越えられぬからな!」

「あぁ、やはりこちらの方は魔法使いだったんですねぇ」


 ミネルヴァに指を差されたスザンナは照れるように頭をかいて微笑んでいたが、近付いてきたルビアナの魔力を感じ取った瞬間びくりと身を硬直させた。


「は、はいっ!能力を一人につき一つだけ、それも数時間だけ……限界突破させるだけの、本当にそれしか役に立たない魔法ですが……っ」

「あらあら、卑下しちゃダメですよ~」


 コロコロとふくよかな体を揺らしながら笑うルビアナにスザンナは少しホッとしたのか、胸を撫で下ろす。


「馬に魔法をかけてきたんですわねぇ。脚力強化といった感じかしら?これだけの数を強化できるなら素晴らしい能力よ」


 そのまま誉められると、緩む唇をムズムズと波打たせながら、必死に真面目な顔でいようと努めた。たが元々すぐ表情に出るタイプなのか、スザンナの表情は緊張から解き放たれ、ふにゃふにゃと情けないものに変化している。


「……、……」

「ユキちゃん。ダメだよ~。君の能力で皇国に送り届けるとかは……それは()()()()じゃない」


 ミネルヴァたち――皇国アマリリスの人間たちに、珍しく警戒心を解かないノヴァーリスを見て、おもむろにユキが一歩右足を動かした時、その次の行動を制止したのは()()()()()()()()()()()()()ムーンダストだった。


 いつものように笑っていれば、ユキは何か発言できたかもしれない。だが問答無用だと言わんばかりの圧力が、その低く発せられた声から滲み出ていたのだ。



「あぁ!そうだ!忘れていた。これだけはハッキリと先に伝えなくては」

「……なんでしょう?」


 ノヴァーリスの警戒が、ロサを追われレオニダスの屋敷で目覚めた時に、彼女を襲ってきた刺客らしき男が泥のように溶け消えた際、そこに残った朱頂蘭(しゅちょうらん)の木札のせいであることを露知らず、ミネルヴァはまた爬虫類的な笑みを浮かべてノヴァーリスに手を伸ばした。


「ノヴァーリス。アマリリスとロサで同盟を結ぼう」

「…………え?」


 その時ノヴァーリスの瞳から感じ取れたのは、大きな戸惑いの色だった。

これで六章は終了となりますー!

七章に入るのと、こちらが最終章の予定です。


アンデシュダール戦記は、元々三部作のつもりで。


国を奪還までの第一部【夢現の青薔薇姫】

大陸中の思惑が駆け巡り、大きな戦争そしてずっと裏で糸を引いていた者との決着が第二部【青の王子(ダリア)に祝福を】になります。

協会や残っていた謎、統一王が誕生するまでを描く第三部【咲き誇るは悠久の(はな)】です。

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