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夢現の青薔薇姫~アンデシュダール戦記~  作者: 如月 燎椰
第二章、争乱の幕開け
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【レオニダス】★

 レオニダスは腹立たしい気持ちでいっぱいだった。

 乱暴に道を歩きながら、先刻まで一緒だった兄のアシュラムのことを思い出す。


『はぁ、僕に死神の影が迫ってるとその占い師の子は言ったんだね?』


 協会(カーネーション)に属さない占い師も世の中にはいて、その内の一人がフラりとレオニダスの領地にやってきてそう言ったのだと告げると、能天気な兄は気の抜けたような声で首を傾げたのだ。


『それでノヴァーリスに()()()と、僕に忠告を……あぁ~、レオニー。僕は嬉しいよぉ。やっぱり君はとっても家族思いのいい子だねぇ』


「だーっ!!昔からずっとあの調子だよ!!クソ兄貴めっ!」


 くしゃっと皺を作って嬉しそうに笑うアシュラムの顔は、本当に悪意の欠片もない純粋なものだ。昔からずっとそうだった。


『それに、死神の影が単純に死を意味するものではないだろうし。それに僕はルドゥーテを守りたいから』


 ルドゥーテが国や民や娘を守っているように。と続けたアシュラムをレオニダスはかっこいいと思った。だからそれ以上何も言えなかったのだ。兄の想いを踏み潰せるような人間ではなかった。


「まぁ……なんだ。あんな子供の占い師の言葉を信じるのも、なぁ」


 レオニダスの館に現れた占い師は青い髪を頭の上部でツインテールにしている少女だった。ルピナスと名乗った彼女は、ノヴァーリスにレオニダスが手渡した懐剣(かいけん)を取り出し『これを青薔薇の姫に』と口にした。それから抑揚のない声で淡々と『王に死神の影が迫ってる』とだけ続けて去っていったのだ。


 何もない、と信じていても不安になったレオニダスは占い師の言う通りにノヴァーリスに懐剣を手渡した。そして忠告になればいいとアシュラムに告げたのだ。




「……ふぁ、ご用件は終わりましたか」


 城下の裏路地を通って袋小路(ふくろこうじ)に着くと、そこには二頭の馬がおり、一頭の馬上には、黒の地毛に赤と桃色のメッシュを所々にいれている派手な頭の眠そうな顔をした少年がいた。


「あぁ終わったよ。もうどうとでもなれだ!帰ったら飯にしよう!」

「はー……俺は眠いです……」

「アキトくん?!君、今まで明らかに寝て待ってたよね?!つか馬上で何時間も寝るとかすごいよねっ!レオニダスおじさんびっくりだからねっ!!」

「……いや自分でレオニダスおじさんとか……サムい」


 ふるふると気持ち悪そうな表情で自分を見るアキトにレオニダスは殴りたくなる衝動をなんとか抑える。

 彼はレオニダスの従者だが、四六時中眠そうにしていた。


「とりあえず、戻るか!」


 ここにいても仕方がないと袋小路を一旦引き返し、城下町を後にする。

 地下水道が流れつく川辺を通って、人気(ひとけ)の少ない森の中を通った。獣の出る道ではあったが、レオニダスの領地へ向かうにはここが一番近い。松明(たいまつ)を用意しながら、一時間ほど馬を走らせると森の出口が見えてきた。

 森を抜けると小高い丘の上に出る。

 この丘の下はダリアとの国境線を有する道が続いていた。


「な、なんだと……?!」


 そしてレオニダスは驚愕した。

 丘の下には数多(あまた)のダリア軍が行軍していたからだ。その数は明らかに王と王子の護衛の兵数ではなかった。


「……はー、数はおよそ五万ぐらいですかねぇ」


 気だるそうに隣で答えたアキトにレオニダスは口をパクパクさせる。


挿絵(By みてみん)


「……酸欠の魚みたいですね。ウケる」

「あ、阿呆なの?!アキトくんは阿呆の子なの?!こ、この数、おかしいだろう?!どう見ても祝賀会に行く数じゃ……っ!大体見張り台は……」


 もう先頭集団すら見えないほど、彼らは王都に近づいている。

 この距離まできていてこの行軍数を見張りが見つけられないはずがないのだ。


「はー……確かダリアとの国境付近の一帯は、女王様の兄君、グレフィン様の持ち場じゃないですか?」

「……っ、俺は馬鹿か!」


 レオニダスは顔をあげて馬の腹に(かかと)を使って圧迫し脚を入れる。通ってきた森の中に入り、来た道を急いで戻った。


「レオニダス様、無駄です!あの行軍はもう王都に着きますよ!」

「馬鹿野郎っ!!あそこにいるのは俺の家族だぞ!!」


『王に死神の影が迫ってる』


 頭の中に(よぎ)ったルピナスという占い師の言葉。

 レオニダスは王を単純に兄であるアシュラムのことだと捉えていた。

 だが違ったのだ。


 ――ロサの王は女王ルドゥーテその人じゃねぇか!

 そして女王は国を意味する。レオニダスは生きてきてこれほどまでに漠然とした不安感や焦燥感に駆られたことがあるだろうかと思った。


 ――だが解せねぇことがある。

 よもやダリアの王がこんな単純な攻め方をするだろうか。このまま城を攻め落とすにしても民の反感を食らう。そして不意討ちのような、ましてや祝賀会に客人として招待されてのものでは周辺諸国に極度の不快感と不信感を与え、マイナス要素にしかならないはずだ。


 その時王都の方から緑色の狼煙(のろし)が上がった。


「はー……なるほど、夜盗の襲撃ですか」

「クソっ、そういうことかよっ!!」


 アキトの台詞に合点がいく。

 今、城中にはロサの爵位(しゃくい)持ちがすべて揃ってるはずだ。

 ――俺のような変り者以外はっ


「義姉さんっ、兄さんっ、ノヴァーリスっ!!どうか間に合ってくれ!」


 空を覆った雲のせいで、今夜は星も見えなかった。

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