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夢現の青薔薇姫~アンデシュダール戦記~  作者: 如月 燎椰
第六章、奪還と面影と
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【ユキワリソウ】

「……まぁ、派手に暴れるのを期待されたのなら~、頑張らなきゃねぇ~」


 真横で聞こえてくる間延びした口調にイラつきを隠さないユキは、舌打ちをしながら隣に立つ上司を睨み付ける。

 舌打ちが聞こえているにも関わらず、いつものふざけたような笑みを浮かべるムーンダストの口の中に、そこら辺の土でも食わしてやろうかとユキは考えた。

 だがムーンダストの唇が静かに魔法の詠唱に入ったため、実行することは止める。

 ざわざわと風がユキの被っていたフードを持ち上げた。銀色の髪が光の下でキラキラと光る。と、同時にムーンダストの手から炎の玉が複数個飛び出て、その熱量にユキは顔を(しか)めた。


「あはは、ごめんねぇ。そこのハイドランジアの王子様。見せ場は全部私が頂いちゃうから~」

「冗談っ!!」


 ムーンダストの挑発に乗ったような形でオウミが飛び出す。

 だがそれは浅はかな行動ではなかった。ムッタローザと計算された緻密な動きで、王都の西門を守るように構えていた兵たちを次々と倒していく。

 ムーンダストの魔法が相手を撹乱(かくらん)していたとはいえ、それは目を見張る活躍であった。


「あはは、容姿と同じで目立つねぇ」

「これほどまで武芸に秀でているとは……、ところで。ムーンダスト様はいいのですか?こんな派手に動いたのなら、ノワール様たちは黙っていないと思いますが」

「んー?」


 派手さを重視したような炎の魔法が大狼(たいろう)の形を作り、兵たちを飲み込んでいく。

 首を傾げたユキにムーンダストは張り付いたような笑顔のまま、唇だけを動かした。


「大丈夫だよ~。私は既に彼らに喧嘩を売っている状態だけど。国家間の争い事に首を突っ込まない協会(カーネーション)はこの場には現れない。何かあるなら、ロサをノヴァーリス姫に返してからだよ。だから今は……ユキちゃん、ほら行って!」


 トンっと背中を叩かれてユキは眉間に皺を寄せた。背中を叩かれたことに対してではなく、彼がまたユキちゃんなどと呼んだからかもしれない。


 晴れ渡る空の下、太陽が照らす光が建造物の横に長い影を落とす。ユキは目を細めると、派手に立ち回っているオウミやムーンダストを一瞥(いちべつ)した。

 流石に門に近付くユキに気付いた兵たちが何人か向かってくる。重そうな鎧がカシャカシャと音を立てていた。


「命令を無視できないお前たちを殺すつもりはない」


 振り回される銀の刀身を何度も避けながら、ユキは走った。身軽なせいもあったが、自身の中で迷いが生じ始めている兵たちの攻撃は(かわ)しやすかったのだ。


 やがてユキの足の爪先が影を踏む。


「……じゃあな」


 同時にその足は影の中に沈んだ。

 まるで水の中に潜るように、ユキの体は影の中に沈んでいく。


 目指すべきは門の内側。

 この季節の、この地域の、この時間帯。

 王都の建物の構造もあって、西門の内側には丁度影ができている。


 門の外ばかりを気にしていた、門内側の待機兵たちは気づくのが遅れた。

 ぬうっと突如門の内側に現れた青年を目視しても、それが何を意味するのか、瞬時に脳が答えを出すことが出来なかったのだ。


 その一瞬の間。

 たった二秒ほど。


「開けさせてもらうぞ」


 まず始めに西門が開く。

 これは不味いと一番近い中央門から、半分ほど兵が援軍として移動してきた。

 同時に彼らのいた中央門の前にある広場で声が上がる。


「今だ!ノヴァーリス様たちを助けよう!」

「ルドゥーテ陛下とノヴァーリス姫を迎えよう!」

「門ヲ開ケヨウ!!」


 影を再び移動して、民家の軒下に姿を表したユキは、ふっと口許を緩ませた。


 民たちを扇動(せんどう)しているのは、今朝には王都に紛れ込んでいたファリナセアとスクラレア、そしてジロードゥランだったからだ。

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