【ウィンドミル】
すみません!後半追加しております……!m(_ _)m
滝の後ろに洞窟があり、そのまま岩山へと入る道が存在していたことに驚きを見せながら、ウィンドミルは無言でアナベルの案内を受けていた。
――この道は……ビブレイが気に入りそうだ。
ぼんやりとそんなことを考えながら、兵に指示を飛ばす。
もしものことがあってはならない。
もうこれ以上失敗は許されないのだ。
ウィンドミルは兵の半分を分けると、山を迂回させ出入口を塞ぐことにした。この山は丁度ロサとの国境線上に在るため、大きな山道には関所がある。
だが態々奴等が関所を通る筈がない、とウィンドミルは考え細い獣道のような旧道も塞ぐことにしたのだ。
――急がないと、その動きでロサの簒奪者やらに気付かれるかもしれぬな。
一刻の猶予もない。
出来ればこの手で仕留めなければならない。
目付きを変えたウィンドミルは小さく頷くと、真っ直ぐに洞窟の出口を見据えた。
「ここを抜ければもうそろそろ……」
洞穴が見えてきます、と言ったアナベルの様子が歩を進めるごとに不安の色で溢れ返り始める。
「そんな馬鹿な……?!」
「どうした?お前が言っていた洞穴など何処にもないが」
「煩い!確かにこの辺りなんだ!!クソっ!頭が割れるように痛いっ、あぁっクソっ!全部お前らのせいだ……!!」
馬から降りたアナベルは苦しげに岩肌に額を叩きつけながら怒鳴った。
その様子に眉間に皺を寄せながら、ウィンドミルは崖の方から吹き抜けてくる強風に目を細める。彼の長い髪が風に踊るように靡いた。
「……は、ははっ!」
アナベルの笑い声に視線を向ける。
彼は岩を叩く素振りをしながら、ケラケラと笑い始めた。三日月のように細められた目が美しい程の弧を描く。
「……何だ?」
一瞬、終に頭がイカれたのかと思ったウィンドミルだったが、アナベルの禍々しい表情を観察している内にそうじゃないと悟った。
「ありましたよ、ほらここに」
「ふむ……、これは魔法使いの能力か?」
「えぇ、協会に属さない魔法使いの力です」
アナベルが岩の中へと腕を貫通させる。
いや、そもそも其処に岩などないのだ。
――面白い能力だが、インマキュラータの方が貴重か。
ウィンドミルはくっと喉を鳴らすと、後ろを付いてきている兵たちに待機命令を出した。
細長く一列に延びているそれはゆっくりと停止していく。馬の鳴き声が静かに岩山に反響していった。
「行くぞ!!」
ウィンドミルがアナベルと共に洞穴の中に入る。
岩の映像を作り居場所を誤魔化そうとしていたぐらいだ。
相手は最早意気消沈しているに違いない。
そう思っていた。
「……何故……誰もいない?」
ウィンドミルの言葉が行き止まりの穴の中で響く。
洞穴の中はもぬけの殻だったのだ。
頭の上に縄がぷらぷらと揺れていて、その先には星が見えたが、まずここから脱出したとしてはおかしい。
「オウミ様たちが重症の怪我人とリベラバイス様の死体を抱いて、ここから出たとは信じられない」とアナベルは首を傾げていた。
だがどの壁を叩こうが、映像はなかった。
つまり知らぬ間にノヴァーリスたちは洞穴から消えたことになる。
「魔法使いの能力、か?だがそうはさせない!」
ウィンドミルは魔法使いたちに制約があるのを知っていた。
ビブレイ子飼いのインマキュラータが、相手もしくは相手の具現化された能力に触れないと記憶操作できないことが良い例だ。
その為、インマキュラータは自分の力をより活用ために記憶操作に音を使用し、その制約を他人に露呈しないよう努めている。
「徹底的に山の中を探せ!!転移系の魔法使いなど滅多におらぬ!もし居たとしても、あの人数を一度に移動させることは制約でできないはずだ!」
洞穴から出たウィンドミルは兵たちにそう声を張り上げた。だがその刹那――
「ギャアァアっ!!」
「な、に?!」
兵たちの遥か後方で悲鳴が上がる。真っ直ぐに延びた一列の兵は逃げ場もなく、録な反撃もできぬまま後ろから攻撃を受けたのだ。
いや違う、とウィンドミルはアナベルと目を合わせた。
「何故迂回している兵のルートでも煙が上がっているのだ!」
「そんなの俺が知るかっ!!俺はきちんと言われたことをやっただろう?!此処が奴等の仲間がいた洞穴で……っ、あんな怪我人を連れてまさかそんな反撃に出るなど……っ、?!」
アナベルは咄嗟に身体を反転させ、ウィンドミルを前にするように身を捩らせる。
「ハァアアッ!!」
岩の上から跳躍して斬りかかって来たオウミの刃が反応し損ねたウィンドミルの左頬と左胸に真っ直ぐ赤い線を描いた。
「な……っ、オウミ……まさかっ」
「ははっ、縄があるとはいえ、岩壁登るのは結構体力使ったよっ」
天井に開いていた隙間から脱出し、自分達を待ち構えていたのかと、片目を閉じて口角を上げているオウミの表情にウィンドミルは口が乾いていくのを感じた。
「だが、一人でどうするつもりだった?!お前たち、早くオウミを片付け――……は?」
崖から兵たちが吹き飛ぶように転げ落ちていく。悲鳴や絶叫が馬の嘶きと共に山々に反響した。
戦車のように兵を薙ぎ払っているのは、ムッタローザとレーシーの二人だ。二人とも並の男以上の馬鹿力を発揮している。
「ウィンドミル、お前はまだ殺さない。城に戻って王妃に伝えろ。僕がお前を殺しに戻るまで大人しく震えてろってな」
「ふざけ……く、クソッ!!」
オウミの肩越しに別の場所で煙が上がったのを見て、ウィンドミルは分けた兵が各所で全て襲撃されたことを悟った。悟った彼はただ唇を噛み締めながら、オウミの言葉に頷く他ない。
「……アナベル」
じわりと左胸から出血しているウィンドミルに肩を貸して去ろうとするアナベルに、オウミは振り向かずに言葉をかける。
アナベルも一瞬足を止めた。
「……お前の本心は……どっちを受け入れていた」
ビブレイの密偵としての役割か。
オウミの従者としての役割か。
「……私は……」
震える唇でアナベルが何と答えたのか、オウミの耳には何も届かなかった。
二人の距離がお互いを見ることなく離れていく。
――オウミめ、この事は決して忘れぬぞ……!
ウィンドミルはそんな二人の様子に苛立ちながら、静かに復讐の炎を燃やしていた。
6月5日、16時45分頃、寝惚けてきちんと出来てなかった後半を追加いたしましたm(_ _)m