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【シウン】

「……っ?!」


 ――眠っていた……?いつの間に?今何刻だ?

 シウンはハッとして(もた)れ掛かっていた椅子から立ち上がる。

 窓の外は既に暗く、アルベリックの家の中もひっそりと灯されている蝋燭の火が揺らめいているだけで薄暗かった。


「おい、ローレル!起きろ!!」

「んが?!」


 シウンは辺りを見回し、ソファーで眠っているレオニダスとアキトは置いておいても、床に転がって寝ていたローレルとジェイドの二人の姿には違和感を覚えた。

 高鼾(たかいびき)をかいているローレルに蹴りを入れる。ローレルは突如襲った痛みに横腹を押さえながら飛び起きた。


「な……何すんだ、てめぇは!つかなんか偉そうな口調じゃなかったか?!」

「煩い、ですよ。貴方はいつ寝たか覚えてますか?いやそれよりも、ノヴァーリス様はどこに――」


 ローレルの台詞にシウンは苛つきを募らせつつ、自身の主の姿がないことに焦った。と同時に玄関扉が開き、エクレールがボロボロのアルベリックに肩を貸しながら入ってくる。


「アルベリックさん、何があったんですか?!」

「……いや、すまん……」


 (ひび)割れた眼鏡のレンズ向こうで、一瞬アルベリックの瞳がシウンの様子に戸惑ったような色を映してから、申し訳なさそうに頭を下げた。


「……ノヴァーリス様は拐われた」

「まさか!誰にですか?!」


 シウンが眠っていたときに腰掛けていた椅子にアルベリックを座らせると、シウンはさらに声を張り上げる。

 その騒ぎにレオニダスとアキトも目を覚まし、ジェイドも眩暈のする頭を押さえながらなんとか立ち上がった。


 アルベリックは全員の視線を受けながら、エクレールの手から溢れる薄緑色の温かな光に目を(つむ)る。

 やがて額の傷が癒えると、眉間に皺を寄せながら握り締めていた紅い布切れを広げて見せた。


紅の針葉樹(レッド・コニファー)の仕業だ……、昼の仕返しだろう……」

「まさか?!」


 声を上げたのはローレルだった。


「本当に間違いなく奴らの仕業か?!あの紅の針葉樹(レッド・コニファー)が一度襲うのに失敗し、死者を出した村に?」


 矢継ぎ早にそう言ったローレルを皆が訝しげに見る。

 彼は空笑いすると「いや、俺が紅の針葉樹(レッド・コニファー)の幹部なら、仕返しに襲うとしても仲間を倒した強い旅人が居る時は狙わねぇーから」と口笛を吹く真似をしながら続けたのだった。


「いや……たぶん、ノヴァーリス様のことに気付いたんだろう」

「あぁ!ロサのグレフィンかダリアのスパルタカスに売り渡す気か!!」


 アルベリックの苦し気な声に、レオニダスがソファーから立ち上がる。

 その表情はみるみる内に青から赤に変わった。


「紅の針葉樹のアジトはわからねぇのか?!早くしねぇと……!!」


 クソッ!!と部屋の壁を叩いたレオニダスは、その勢いでそばにあった蝋燭の火を一本消してしまう。

 余計に薄暗くなった部屋の中でアルベリックはポツリと呟いた。


「アジト……なら、分かるかもしれない。ジェイドが……」

「あぁ。ここから東の山で光がちらついた事があったんだ。もしかしたらあれがそうなのかもしれない」


 まだふらつく身体を押さえながら、ジェイドは静かに頷く。エクレールが無表情のまま消えた蝋燭の火を灯した。


「……でもどうして俺たちを殺さなかったんですかね?」


 アキトが呟いた台詞にシウンは大きく首を縦に振る。


 ――むしろ賞金が掛かっているのは、レオニダス様の筈だ。

 シウンの違和感は大きくなっていた。


 表向きではノヴァーリスはレオニダスに誘拐されたことになっている。そして誘拐したレオニダスには賞金が掛かっていた。勿論、ノヴァーリス発見の賞金もあったが、懸賞金狙いならばここはレオニダスの首も持って帰る筈だ。

 それをせずノヴァーリスだけでいいと言うのならば、ダリア王であるスパルタカスがグレフィンに手を貸し、ノヴァーリスの死を一番に望んでいるということを知っている人間に決まっている、とシウンは思った。


「……きっと、俺が思いの外抵抗したから、レオニーのことは諦めたんだろう」


 アルベリックの(もっと)もらしい言葉に、レオニダスがそうに違いないと大きく頷いた。

 シウンは熟考した後、緩んでいた革手袋を引っ張る。


「では時間がありません。東の山が怪しいと言うならば、それに賭けるしかありません」

「お、俺が案内する!」


 ジェイドが手を上げると、シウンは少しだけ表情を和らげた。

 それからそれぞれの武器を手に持つと、アルベリックとエクレールを置いて東の山に向かうことにする。


 唯一人、なかなか納得できないでいたのはローレルだった。

 彼はやっぱり首を傾げると、何かをポツリと呟いていたが、少し冷静さを欠けていたシウンの耳には届かなかった。

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