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【ムーンダスト】

 協会(カーネーション)の最高幹部の名前はノワールと言う。

 性別は男で、身長はムーンダストより少し大きめの百八十九センチだった。

 顔はムーンダストでさえ知らない。ノワールだけでなく幹部は基本的に顔面を覆う布の付いたフードを被っているからだ。肌色が見えるのは首元と手首くらいなものである。

 クリーム色の長いローブのような衣服を全員が着ている様は、何も知らない子供が見たら泣き喚いてしまうほど恐怖の絵面だろう。


「……ふふっ」


 ムーンダストはその場面を想像して吹き出した。

 彼と同じ円卓を囲んでいる幹部たちが訝しげにムーンダストを見る。視線の動きは判らない為、顔の向きでの判断ではあるが、確かに彼らはムーンダストを見た。


 ――あぁ。本当に気持ち悪いなぁ。

 ムーンダストはそんなことを思いながら、目を細めて口角をあげる。

 ノワールと同じような身長の幹部たちは、ムーンダストのその笑みを見てからまた顔の向きを変えた。


「最近はぐれ魔法使いが増えているようだ。大人になると意志が頑なになることが多い。だから子供の内から協会に迎えるように」


 ノワールの声は誰かの魔法なのか、音声を変えられていた。いやノワールだけではなかった。やはりムーンダスト以外の幹部たちも同じように変声魔法を使われている。


「それから皇国アマリリスだが、最近嫌な噂を聞いた。小国パンジーの王も心配していた。だから――……」


 ――本当に、本当に!気持ち悪い!!

 襲ってくる吐き気を我慢しながら、ムーンダストはなんとか幹部会議とやらを終了した。

 仲間内で会話をすることもなく、幹部たちは散っていく。そんな幹部たちがムーンダストには薄気味悪く不自然なものに見えて仕方がなかった。






「ムーンダスト様」


 自室に戻ったムーンダストの前に影からユキが顔を出す。

 突然の事にも関わらずムーンダストは驚きもしなかった。ただ小さく溜め息をつくと、ユキに紅茶を淹れてくれとせがむ。

 ユキは一瞬躊躇したが、ムーンダストの顔色が少し悪かったので紅茶を淹れてやることにした。


「ねぇ私は私を天才だと思っているんだよ~」


 ユキから紅茶の入ったティーカップを受けとると、ムーンダストはキッパリと断言する。

 先程まで気分が悪そうにしていた癖に何を言い出すんだこの馬鹿は。と言った表情で椅子に座るムーンダストを見下ろしていたユキだったが、はたと気づいて彼の部屋の中にある姿見の前に立った。ユキのアイスブルーの瞳がギラリと光る。


「……おい、この金髪クソ野郎。てめぇ時間を気軽に止めてんじゃねぇよ!」

「はっ!ユキちゃんフォローの言い換えもないの?!」

「はっ倒すぞ、コラ」


 ドスの利いた声を出すと、ユキは自身が持っていた手拭いで顔中を拭った。黒い墨で書かれた顔の落書きはなかなか落ちない。それだけでユキの苛つきは頂点に達する。

 ユキが先刻淹れた紅茶の残りがあるポットの湯をムーンダストに頭から浴びせてやろうかと熟考していると、いつの間にか手に持っていたポットの中身は空になっていた。


「だからっ!」

「時間を止めれるってさ~、やっぱり最強な感じがするよね?それに私は火を操ったり他にも色々できるわけさ~」


 いつの間にか一人で紅茶のおかわりをしていたムーンダストは、ヒラヒラとおちょくる様にユキに手を振った。


「まぁ時間止めれるって言っても、貴方の場合干渉できることが限られてるんで人も殺せないですけどねっ」

「ユキちゃん辛辣っ」

「それ以上ちゃん付けしたら殺すぞ」


 ムーンダストは(わざ)とらしく肩を竦めると、今度は真剣な表情で窓下の景色を眺める。


「……後、あの人たちの時は絶対に止められないんだよね」


 ノワールの姿が広場にあった。

 ムーンダストの翡翠色の瞳が曇る。


「最高幹部の能力も、他の幹部たちの能力もよくわかりませんよね……」

「私にもわからないよ。何年掛けても……謎が解けない。そして恐らくこの会話も全部筒抜けなんだ」

「え」


 ユキが驚いた表情をしたところで、ムーンダストは人差し指を自身の唇に当てていた。

 そしてもう片方の手の指を動かすと、空中に炎で文字を描く。


 “ここをぶっ壊す”


 “子供の頃に計画を立てたんだ”


 “今はリド王子の魔力を高めて”


 次々と炎が言葉を紡いでいった。ユキは呆気に取られたまま、そのムーンダストの魔法を見つめる。


 “協会(カーネーション)では大陸の秩序と統制は無理だ”


「あんた……一体……」


 そこまで口にしてユキは言葉を飲み込むと、小さく頷いた。

 それを満足そうに見つめてから、ムーンダストはまた広場に目を向ける。


「……っ」


 広場の中心に立つノワールが、まるでムーンダストを見ているかのように顔を上げていたのだ。


 ――今のは流石に貴方でも気付かない筈だと思ったんだけど。


 あの人にとって私は一体なんなんだろうか。私はどこで生まれたのだろうか。そんな疑問ばかりが物心ついた時からムーンダストにはあった。


「だから」


 ――これは賭けだ。

 それは分の悪い賭けだった。

 心から信頼できる協力者を見つけるのも一苦労で、全ての歯車が揃っても動くかどうか判らないほどの、分の悪い賭け。


 多くの人の命を奪うであろうその計画を始めた時、ムーンダストは笑っていたのだった。

……正直に言うと感想が欲しい。ですよね(笑)


一章に挿絵が追加されていってます!

とても美しく素敵な挿絵を頂いておりますので、もし宜しかったらどうぞなのです!

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