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【レーシー2】

「……ん」

「おぉ少年!気が付いたか!!」


 ジョエルが意識を取り戻すと、レーシーは嬉しそうにそう声を上げた。

 テラコッタを連れ去ったらしい死神男爵ことジロードゥランを追っていた為、気絶してしまった少年を放っても置けず、やきもきとしていたのだ。


「すまない、少年!私は道を急いでいるんだ。だから単刀直入に訊く。何があった?」


 元々レーシーは回りくどいことが嫌いで剛直な人柄だった。迅速果断(じんそくかだん)ではあったが、道を間違い後悔することも多い。

 そんなレーシーに真っ直ぐに見つめられ、ジョエルは口ごもっていた。


「なんだ、早く言いたまえ!」

「ぼ、僕は……ジョエルと申します」

「うむ、名前なんてどうでもいい!君は家族がどうとか言っていたじゃないか。何かあったのだろう?」


 ジョエルはレーシーの勢いに何かを考えるように目を泳がせた後、思いきって口を開いた。


「僕はレオニダス様の領地の者です!レオニダス様は昨日、領民を巻き込みたくないと領地を捨て出ていかれました。なのに、その後……漆黒の鎧を着た騎士様がレオニダス様と一緒になって共謀したと、領地すべての民を焼き殺しました……僕は見たんです。ダリアの王子様も一緒だったのを!……あそこには、まだ、僕の、母と、幼い妹も二人、……二人とも……っ!」


 ジョエルは気丈に話し出したが、家族を思い出したのか終わりの方は嗚咽(おえつ)が漏れて聞き取りずらかった。

 レーシーは大きく頷くと、キッと空を見上げる。


「裏切り者のギネめっ!!グレフィン公のような小物に王が務まるものか!ダリアの冷血漢にそのまま喰われるのが落ちだ!!」


 突然吠えたレーシーにジョエルはぎょっとしていたが、内心はホッとしていた。彼はレーシーを味方だと捉えたのだ。


「少年!いやジョエル!!」

「は、はいっ!」


 ばっと唐突に名指しされ、ジョエルは身を縮こまらせる。


「ええい、男ならシャキッとしろ!今は大事な任務の途中(ゆえ)、君の故郷に連れていってやることは出来ない!だが、君一人を放置することも私の主義に反する!だから君には私の従者をやらせてあげよう!」

「…………え?」


 レーシーはポカンとしたジョエルの顔を眺めながら、ふふんっと鼻息荒く剣を鞘から抜いた。


「私は騎士だ。だから君に剣を教えることもできる!家族の(かたき)を取りたいだろう?!いや勿論、一番は君の家族の無事を信じたいが!……うむ、大丈夫だ、任せておけ!私が君を強くする!!」


 一通り喋り終えると、レーシーは見事な剣捌きで剣舞(けんぶ)を披露した。それはジョエルを勇気づける為のものだったが、調子に乗りすぎたのかレーシーは途中で(うずくま)る。


「あたたっ、く、くそ!!」

「あの、騎士様。どうなさったのですか?」

「……恥ずかしいところを見せた。だが、これには(わけ)が……私は一昨日の夜、君が見た漆黒の鎧の騎士、ギネの攻撃を受けて三階から落ちたのだ……侍女殿のおかげで命に別状はなかったが、どうも骨を何本か折ったのかもしれない。だ、だから!普段の私はもっと強いぞ?!」


 激痛に顔を歪めながらも、それを人前で顔に出すのは恥だと思っているレーシーは「このような軟弱な姿を見せてすまない」とジョエルに頭を下げた後、どうか他言無用でいて欲しいと続けた。

 ジョエルは驚いていた。

 三階から落ちて無事だったこともだが、この人は骨が折れているにも関わらず馬に乗っていたのかと信じられないものを見る目でレーシーをまじまじと見つめる。

 乗馬は全身の筋肉を使うものだ。幼い頃より父親に教えられ馬に乗り始めたジョエルはそれを一番理解していたのだ。


「えっと騎士様」

「……なんだ」

「騎士様のお名前を聞いてもいいですか?」

「何故だ」


 レーシーの融通の利かなさに若干呆れつつ、ジョエルは涙を綺麗に拭って立ち上がる。


「従者としてお役に立つ為です!」


 レーシーはジョエルの真っ直ぐな瞳を見て大きな笑い声を上げた。


「はははっ!うむ、私はレーシーだ。宜しく頼むぞ、ジョエル」


 くしゃくしゃとジョエルの頭を撫で回すと、レーシーは再び短く呻く。


「レーシー様」

「ジョエル、今はここを片付けて先を急がなくては!」

「いいえ!先ずは痛む場所に添え木を固定したいので、じっとしてください!」


 自分よりも一回り以上も違う年の離れた子供に怒られて、レーシーは目を丸くするのだった。

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