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【ノヴァーリス】★

『ノヴァーリス、お寝坊さんだね。大丈夫、ママには内緒にしといてあげるから』


 ふふっと口元に人差し指を当ててウインクをしてくれたアシュラムはそのまま扉を開ける。目を覆いたくなるような白い光が扉の向こう側から溢れてきた。


「待って、お父様……っ!」

「ノヴァーリス様」


 ノヴァーリスに背を向けて扉の向こう側に行こうとするアシュラムの背に必死に手を伸ばした。

 だがその手を掴んだのは、アシュラムではなく心配そうな顔をしているシウンの手だった。

 絹の手袋の感触が脳に伝わり、ノヴァーリスは見慣れぬ天井に悪夢が去っていないことを悟る。


「……ここは」

「覚えていますか?レオニダス様のお屋敷ですよ」


 こくりと小さく頷いて、ノヴァーリスは上半身を起こした。

 部屋の中を見回してから、部屋の中にある机にアシュラムが羽織らせてくれたマントが(たた)んであることに気づく。

 それからふと自分の姿を確認し、慌てて毛布を胸元まで引き上げた。


「……あぁ、すみません。ドレスはきちんと洗濯していますから」

「ま、待って。シウンが、脱がしたの?」

「はい。ドレスでは寝苦しいでしょうし、崩れて変なシワがついても困りますし……」


 平然とそう答えていくシウンにノヴァーリスは血液が沸騰するような感覚を味わう。

 ドレスを脱がされ下着姿にされたのも羞恥心(しゅうちしん)でいっぱいだったが、この姿の自分を見ても相も変わらずいつも通りであるシウンが腹立たしかった。


 ――な、何よ、どうせ発展途上よ!

 これでもここ二年でだいぶ育ってきたのだが、と考えてからそんなことを言っている場合ではないことを思い出す。


「それでどうなったの?!お父様は?お母様は?」

「ノヴァーリス様、落ち着いてください。まずは朝食でも召し上がられてから」

「……何を隠しているの?」


 ベッドから飛び起きて迫ったノヴァーリスは、シウンがまともに目を合わせてくれないことに気が付いた。


挿絵(By みてみん)


「……アシュラム様は、夜盗を使って女王様を殺すつもりだったと自供し、謀反(むほん)の罪で……処刑されました」

「そんなのは嘘よ!ダリア兵が私たちの兵を殺したのを見たじゃない!」

「わかっています……っ!」


 観念したように話始めたシウンにノヴァーリスは目を見開きながら大声を上げる。そのまま叫びそうになると、シウンはそれに気づきノヴァーリスを強く抱き締めた。


「落ち着いてください!アシュラム様の機転(きてん)英断(えいだん)により、ルドゥーテ様は殺されずに済んだのです」


 シウンの心音がノヴァーリスの耳に届く。

 ノヴァーリスはその音がとても心地好くて、シウンの腕の中で(むせ)び泣いた。


「なーにが英断だ!お陰でこっちは立派な反逆者だ!!」


 シウンが泣いているノヴァーリスの頭にキスを落としたと同時に、部屋の中にレオニダスが足音を立てて入ってきた。

 彼はシウンからノヴァーリスを引き離すと、ぐりぐりとノヴァーリスの頭を撫でた後、脇に抱えていた彼女のドレスを手渡す。


「取り敢えず着替えなさい。……シウンも抱き締める前に先に着替えさせないとダメじゃないかぁ!……狙ってやってたらぶっ殺すぞ!」


 表面上ニコニコと笑っていたが、最後のシウンへの呟きは低音で大迫力だ。

 しかしシウンは変わらず笑みを携えながら「何の事かわかりませんね」と肩を(すく)めるだけだった。




 暫くしてノヴァーリスが着替えを終え下の階に降りると、居間に全員が集まっていた。


「……レオニダス叔父様、召使いなどはどうされたのですか?」


 全員といっても、レオニダス、シウン、アキト……と、何故か縄で縛られている男だけである。不思議に思い首を傾げると、レオニダスが苦笑した。


「さっきも言ったが、反逆者扱いを受けたから。俺の領民たちは俺たちがそんなことをするわけないと言ってくれてはいるが、やはり迷惑をかけるかもしれないからな。暫く休みを取って貰っている」

「え!俺も休み取っていいですか?」


 レオニダスの説明にアキトが目を輝かせる。


「いやいや、ちょっと待って!アキトくんが休んだらレオニダスおじさんピンチなんだけども!兎は寂しいと死んじゃうんだよ!」

「……はぁ。その外見でよくそれが。あと、あんた兎どころか熊だろ。図々しいな……」

「アキトくんが冷たいよぉー!」


 騒がしくなった二人を見つめながら、ノヴァーリスは小さくクスッと微笑んだ。

 それを見たレオニダスは嬉しそうに目を細めてからノヴァーリスの頭を優しく撫でる。

 束の間だけ、ノヴァーリスはアシュラムの姿をレオニダスに重ねた。




「……さて、それではこれからのことを話そうか」


 これからを話始めたレオニダスに、ノヴァーリスは覚悟を決めて耳を傾けるのだった。

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