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夢現の青薔薇姫~アンデシュダール戦記~  作者: 如月 燎椰
第二章、争乱の幕開け
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【ローレル】

「クソッ、ふざけんな……っ」


 仲間たちは全員殺された。

 黒の月桂樹団(ブラック・ローリエ)(ちまた)で恐れられた盗賊団が一晩で壊滅状態になった。

 もはや生き残りは俺だけか、と城の裏手の茂みに身を隠していたローレルは黒装束のマスクを取る。


 ――だから俺は始めから反対してたんだ!

 ダリアの貴族がたんまりと前金を持ってアジトに依頼をしてきた時からローレルは何か裏があるんじゃないかと思っていた。

 襲う先がロサの王城という段階で危険な仕事だったのだ。

 苦労して大きな盗賊団の幹部になったというのに、これでは(もと)木阿弥(もくあみ)である。


「っ?!」


 その時、頭上で硝子が派手に割れる音が響き、顔を上げる間も無くローレルに向かって硝子の破片が散らばって落ちてきた。


 ――は?人が空中に浮いた……?いや、やっぱ落ちてくる!!


 プツリと糸が切れるような僅かな音がした気がするが真相はわからない。ただ、真横に白の鎧を身に纏った女騎士が落ちてきたのだ。


 ――死んだか?……いや生きてやがる。


 刹那、ローレルはギクリと身を硬直させた。

 女騎士と目があってしまったのだ。


 ――しまった!顔を見られた!!

 どこの誰かは知らないが死んでもらうしかないと、ローレルは懐に持っていたダガーを女騎士目掛けて振り下ろす。が、死にかけの筈の彼女は条件反射なのかそこらにあった太い枯れ木の枝で攻撃を防いできた。


「ぐっ!」


 しかも女騎士は馬鹿力だった。

 落ちてきた衝撃でどこか折っているのかわからなかったが、動きが悪いわりには強い。


 ――ここは撤退っ!逃げるが勝ちってな!!

 それがローレルの信条だった。

 だからこそ、今夜生き残ったのかもしれない。


 低く回転し女騎士の剣を(かわ)すと、一目散に城壁目指して走った。俊敏さには自信がある。

 高い城壁をいとも簡単にかけ登ったのだった。




「……よし、もうここまでくれば……」


 ローレルは辺りに誰もいないことを確認すると、黒装束の衣装を脱ぎ、適当な酪農家(らくのうか)が飼っているヤギの小屋に放り込んだ。

 それから驢馬(ろば)と藁の積み上がった荷車を牧場(まきば)から平然と頂いていく。


 カタカタと回る車輪の音と驢馬の(ひづめ)の音が耳に心地いいとローレルは欠伸をした。

 城から自分以外の誰かが逃げたのか、町にまでダリアの兵が彷徨(うろつ)いている。ちらりと見えた人相書きから、どうやら逃げたのは例の王女様だなとローレルは思った。依頼された標的の一人だったからわかるのだ。実物を見たのは遠くからだったが。


「……ふむ、特に何も入ってないな」

「へぇ」


 何も知らない町人を装い、藁を調べたダリア兵に頭を下げる。

 もう少しで王都から脱出できると口元が緩んだときだった。

 ガタガタと突然荷車が大きく揺れた。

 ローレルは何事かと後ろを振り向くと、荷車に男女の二人組が勝手に乗っている。藁に背を預けて体勢を低くしている様は追われているからだろう。


 ――いやいや待て待て待て!

 ローレルは焦った。

 女が先ほど見た人相書きと瓜二つだったからだ。それに城でこの女を見ている。王女のノヴァーリスで間違いない。


「すみません。貴方に迷惑をかけるつもりはないが、馬を買うことが出来なかった為、町外れの森まで向かって欲しいんです」


 ノヴァーリスは眠っているようだった。

 小さな声で話す男は格好からいえば執事なのだが、気配が執事のそれではない。


 ローレルは厄日だと思いつつ、ノヴァーリスをダリアの王に引き渡そうかと一瞬考えた。だがダリアの王族には今回の事で恨みしかない。

 ならばこのまま、こいつらを安全な場所まで送って見返りを貰った方が得ではないかと熟思黙想(じゅくしもくそう)する。


「……礼は弾みます」

「喜んで!」


 男が見せた金貨の入った袋を見て、ローレルは鼻歌を歌いたい気持ちになった。

 この時のこの選択が後々彼の人生計画を狂わすことになろうとは夢想だにしなかったことだろう。

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