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異世界女子、精霊の愛し子になる  作者: サトム
一章 異世界女子、精霊の契約者になる
6/26

異世界女子、知人の現実を知る

このお話はファンタジーでフィクションです。

 王都に戻る日になってようやく、旅の間に陰で千早たちの護衛をしてくれていた騎士二人が合流した。クライの双子の弟クロルとベンズという騎士である。彼らは先行して街や街道の安全情報と宿や騎馬を世話する手配をしていたと聞いていたが、それ以外にも何か仕事があったらしく合流が今日になった。まもなく再び出発するというのに過酷な仕事である。


「初めまして、お嬢さん。私はクロル・レジットと申します。彼はベンズ・ルピスナー。帰りは我々も同行しますね」


 双子なので当たり前だが初見では区別がつきにくいほどクライに似ているクロルと、身長は千早とほぼ同じで一瞬性別に迷うほど整った顔のベンズが挨拶にきた。レスタはラスニールと一緒に砦の高位騎士と挨拶を交わしており、メイサは出発に向けてリズと共に馬車にいるので千早は一人で頭を下げる。


「レスタの契約者をやってます、皆川千早です。よろしくお願いします」


 自分で言っておいて変な自己紹介だが、案外これが一番千早の言いたいことを相手によく伝える言葉ではないかと思っていると。


「なるほど。それなら護衛が必要だな。ベンズだ。よろしく頼むよ、チハヤ」


 やはり面白いと思われたらしくベンズは楽しそうに笑った。仲間から詳しい話を聞いていたようで彼はすんなりと千早の名を呼び、帰りはクライとレックスが先行して隊を離れると教えてくれる。

 これでジークの小隊全員と顔を合わせたわけだが、個性的な容姿と性格はこの隊特有のものなのか、異世界人とは皆このように強烈な人たちばかりなのかの判断に迷いつつ、穏やかそうな笑みを浮かべるクロルに訊ねた。


「クロルさんも牢屋でお会いしましたか?」


 この場にクロルとクライの二人がいても見分けるのが難しかった。仲間たちは戸惑うことなく見分けているようなのだが二人ともわざとお互いに似せているようで、だから千早は素直に聞くことにしたのだ。

 千早の質問にクロルは楽しそうに笑って頷くので心を込めてお礼を言うと、これまた初日にクライが返した言葉とほぼ同じものが返ってきて、双子とはここまで似ているのかと驚く。


「ああ、私たちは微かですが精神感応ができますからね。クライになにかあれば何となく判りますし、クライからも受け取れます。そういった意味でも似ているのかもしれませんね」


 これは筋金入りのシンクロだと感心していた千早に出立準備をしていたレックスが「実は……」と小声で教えてくれた。


「感情もなんとなく判るらしいぜ。だから好きな女性も一緒になるらしい」


 それはある意味面倒くさい人種だと千早は双子騎士をそっと覗き見る。男性らしい逞しさと清涼感漂う美貌を持ち、行きに同行したクライの印象だが人当たりも良く周囲を気に掛ける心遣いを嫌う人間は少ないだろう。それが二人もいて、一人の女性を同時に口説いたらどんな物語のような話(修羅場)になるのだろうと、下世話な想像でニマニマしてしまった。


「千早?」


 邪な心を見透かすようなタイミングでレスタが戻ってきて、二の腕に擦り付けられるたてがみを撫でながら騎乗する二人の騎士を見上げる。


「気を付けて」


 見送る者の礼儀として千早が声をかけると、年若く凛々しい青年二人が右手を左肩に当てて右斜め下へと振り下ろし馬頭を巡らせ勢いよく馬を走らせた。


「では我々ものんびり出発しよう。クッションの用意はいいか? チハヤ」


 往路での報告を聞いていたラスニールがニヤニヤと笑いながら声をかけてきて、いそいそと御者台に上がろうとしていた千早はすでにスタンバイされていたふかふかのクッションを叩いて答える。笑いを含んだ気安い空気のまま全員が騎乗し、数人の見送りを背にあっさりと砦を出発した。


 七日もかかる馬車の旅なんて暇で面倒だと思っていたが、初めての場所というのはいくつになっても心躍るものなのだろう。新しい人員が増えればなおさらである。来た時より一頭多い騎馬は、その巨躯に似合わない華奢な少年を乗せていた。まぁ一緒に巨大蛇も乗っているのだから重量は大人一人分くらいあるだろうが。


 馬車の御者台に座りながら千早はチラリとマントを羽織ったラスニールと彼が背負う巨大な剣を見る。最初に見た感想は物騒だなぁだったが、今は彼があれをふるうことが出来るのかという好奇心の方が勝っていた。

 つまり危機感に欠けていたのだ。千早は彼らが剣を持つという意味を正確に捉えていなかった。


 王都への帰途について二日目。この辺りは砦からもほどよく遠く、更に森に近い街道であるがゆえに村や町も少ない。旅人を守るのは足の速い馬車か少し街道を離れたところにある狩猟を生業とする村だ。どんなに足の遅い馬車でもたいてい朝に出発すれば夕方前には次の宿場町に着くのだが、どんなに用意していてもどうにもならないことということはある。


 その最たるものが天候だ。街道の先から湧き出た低く黒い雲の下が雨で霞んでいるのが見え、数十キロ先でも目視できるそれは思っている以上に強そうだ。その上、稲光までもが頻発すれば打てる手は少ない。


「少し戻ることになるがミシルの村に避難する」


 ラスニールの決断にジークたちはすぐさま行動を開始した。


「チハヤ、馬車の速度を上げるわ。しっかり捕まっていなさいよ」


 本日御者を担当していたリズが声をかけると、馬車の速度が一気に加速される。嵐に追われるように走る馬車は小さな標識で街道を逸れると森に向かって疾走した。一応道はあるようだが、それでも大きな街道に比べると振動が激しく時折千早の尻が浮く。どうしてそこまで急ぐのか聞くことができないまま、あと一キロほどで森に入るというところで再び道が曲がり、森の淵に沿って走り始めた。


 背後からはゴロゴロと不気味な音が聞こえ、時折雷鳴が響き渡る。

 先頭はジークとラスニール、馬車と並行してガレイン、後尾をクロルとベンズが疾駆していたが、ラスニールとジークが同時に肩の高さへと手を上げると一同は鮮やかな足並みで停止した。


「チハヤ、動かないでね」


 リズが腰の剣に手をかけながら馬車の中にも同じように声をかけるのと、森の中から巨大なイノシシのような生き物が飛び出してきたのは同時だった。馬車よりも大きな体躯に黒い体毛、口元から鋭い牙を生やしたソレの血走った目が一同を捉える。


「来るぞ」


 象ほどの大きさに凶暴さを覗かせる容姿で一目見て危険な生き物だとわかるのに、馬から降りて剣を抜いたジークより前に踏みだした人物がいた。


「総団長」


 咎めるような、それでいて諦めたような声で諫めたのは小隊長ジークだが、ラスニールはその綺麗な顔に似合わぬ獰猛な笑みを浮かべて背負っていた大剣を下ろす。


「小物だな。フィールド小隊長のみ戦闘準備、他は引き続き警戒を」


 指示が飛ぶと同時に騎士たちが鎧をまとった。まるで変身したかのように何もないところから突然現れたように見えて、千早は隣で立ち上がっているリズを見上げる。肩からウエストまでの鎧と手首から肘の外側を覆う小手が騎士服の上から彼らを守っていた。

 それでもイノシシに比べると心もとなく見えて、千早は巨大蛇を従えた小柄な背中を見守る。


「手早く済ませるぞ」


 ラスニールは背中から大剣を引き抜きながら心底楽しそうに笑い、聞き取れない何かを呟くとまるで夢であるかのように小さな身体が巨大化した。


「え?」


 そう、体躯に(・・・)合った(・・・)片手剣(・・・)を持つ大人の男が部分鎧を身にまとって笑っていたのだ。

 千早の動揺をよそにイノシシもどきは獲物へと突進する。その牙は意思を持つかのようにぐにゃりと曲がってラスニールに襲いかかるが、筋骨隆々とした男は外見からは想像もできないほど柔らかに下を潜った。それと同時に剣をふるったように見えはしたものの、イノシシもどきは何もなかったかのようにリーガを避けて走る軌道を変え、再び真横からラスニールを狙う。


 今ここにいる中で二番目に体格の良い彼は獰猛な笑みを浮かべたまま右手首を軽く振るうと、どこかでパキリと何かが割れた軽い音がしてイノシシもどきが走る勢いのまま倒れこんだ。同時に走りこむラスニールとジーク。一人は額を、一人は喉を切り裂いて速やかに息の根を止めると、返り血一つ浴びていない彼らは剣を拭って鞘へと納める。


「リーガ!」


 自分の精霊を呼ぶ声は太く錆びた大人の低音。


「さすがの私でもこれの丸呑みは無理だが」

「誰がお前に食わせると言った。急いで木につるしておけ。血抜きをして運が良ければ嵐の後に肉を回収できるだろう」


 言いながらラスニールは騎乗すると腰に佩いた剣がガチャリと重そうな音を立てた。御者台で警戒していたリズも鎧はそのままに腰を下ろして手綱を取ると、一行はリーガを待たずに出立する。


「私はレスタほど早く移動はできないのだがな。寒いの苦手だし」

「リーガ……気を付けてね」


 ぼやく白蛇の精霊に千早は恐怖の冷めやらぬまま声をかけると、綺麗な金の目が笑みを浮かべ。


「ああ。疾く戻る」


 硬質で澄んだ低い声で親しそうに返された、が。


「だから戻ったら血を一口くれないか」


 いつものように要求を告げられ無言で首を横に振ると、千早はフードをかぶって前を向いたのであった。








 それから村へはそれほど時間もかからずに到着した。頭上の空は晴れているが半歩振り向けば雨が迫っていて、激しい雨音にラスニールの判断が正しかったことを物語る。

 小さなその村は森の恵みで生計を立てているようで、薪や動物の皮などが軒下に干されていた。


「こっちだ」


 村長らしき立派な家の男性と話を終えたジークが村はずれの一軒に皆を案内するころには匂いと共に雨が降り始め、騎士たちは馬を各家に預けに散らばっていく。大人ラスニールと御者のリズの馬は空き家だという借りた家の納屋に入れられ、千早とメイサは先に中へと入っていった。


 入ってすぐ水瓶やかまどがしつらえてある土間があり、一段上がった居間を見渡せる。木が張られた居間の床はうっすらと埃が積もっていて黒ずみ年月を感じさせるものの、湿気を含んだ様子も腐っている様子もない。思いの外頑丈に作られている家を見回している間にメイサはどこかから取り出した箒で軽く掃除を始めていた。


 千早も鼻歌を歌いながら床を拭き清め、そうしているうちに巨体ラスニールとリズが、時間をおいてジークたちがずぶ濡れになりながら戻ってくる。最後にレスタがどこもぬれずに入ってくると居間の一番奥で腰を下ろした。


「村の周囲に結界を張っておいた。雨に紛れて危険なモノは入り込めぬよ」

「ああ、助かる」


 ねぎらいの言葉をかけたムキマッチョ騎士総団長(ラスニール)を千早はレスタの隣に座りながらじっと見つめる。

 一体どういう仕組みになっているのか。ジークたちは驚いた様子がないので、彼の姿が変えられるというのは周知の事実なのだろう。美少年がそのまま美壮年になった彼の亜麻色の髪は、一房だけ額にかかっているが残りは全て後ろに撫でつけられている。赤い切れ長の目は少年ラスニールと似ていない鋭さなのに、どことなく似た空気(加虐嗜好)を醸し出していた。鼻梁や唇は成人男性特有のシャープさと色気を漂わせ、身長も前より倍はある。身体の筋肉も盛り上がり、大きな手はゴツゴツと硬くて筋張ったそれが大人の物だと雄弁に物語っていた。


「ショタジジィだ」


 ジラール近衛騎士団長よりは年下だが、どう見ても三十代後半の容姿でこちらを見る男に千早は思わず悪態をつく。濡れたマントを脱ぎ、現れたのは体に合った黒い騎士服。手袋も靴も違和感なく身に着けていることを見ると、変わったのは彼の肉体だけではないらしい。


「しょた……?」


 ラスニールとは反対隣りに座ったジークが不思議そうに聞き返し、千早はニヤニヤと笑う確信犯から目を逸らして旅の間にしていたように説明する。


「少年の容姿を持つ子供のふりをした大人のことです。っていうかアレ、どういうことなの?」


 ジークのマントのしずくをもろに浴びてしまったロイを拭きながら小声で問えば、本人がその話題に乗ってきた。


「俺は魔力過多でな。この姿だとしょっちゅうモノを壊しちまう。だから普段は付加魔法を逆転させて身体を弱体化させているが、その副作用で子供の容姿になっているんだ。まぁ、日常生活を円満に送れるのなら姿形などどうでもいいし、小柄なら女でも男でも抱くことに気を遣わずに済むから、こればかりはリーガに感謝しているがな」


 いきなり(シモ)ネタを入れてきたラスニールに、頬を染めながらも冷めた視線を向ける千早は心の中で文句をつける。


 それはアレですか。その姿だと大きすぎて男も女も大変だってことですか。もしかして壊すモノの中に人も入っているんじゃないでしょうね? っていうか確実に入っていますよね。自慢なんですか? いや、そうじゃないですよね。過ぎたるは猶及ばざるが如しと言いますし、大きければ気持ちいいってわけじゃないらしいですし。小さいのは愛情とテクニックと道具と創意工夫でどうにでもなるけど、大きいのはどうしようもないことだし。でもそう考えると本気で大きいことがコンプレックスの可能性もあるかも?


 情報過多な世界で生きてきた千早は耳年増である自覚がある。だから心の中で照れ隠しに相手を貶しているうちに、なんだか妙な同情心が沸き起こってきた。


「人の悩みは他人に理解できないといいますもんね」


 レスタのたてがみを撫でて労いながらしみじみと納得すると、切れ長の紅い目が驚きに見開かれる。何かおかしなことを言ったかと反芻していれば、ニヤリと唇を歪めた美丈夫が濃い色気を含んだ眼差しで千早を見た。


「お前は俺に同情するか。なるほど」


 戦闘直後で興奮でもしているのだろう、騎士総団長の言葉と目つきが危ういが騎士たちは気にした様子もなく思い思いにくつろぎはじめる。千早も向けられた視線を流すとレスタとロイの毛づくろいを始め、メイサとリズはお湯を沸かしてお茶を用意していた。


 窓の外はしぶきで視界が霞むほどの大雨がふり、屋根を叩く音も大きい。この世界に来てから初めての激しい気象にちょっと怖くなりながら、まだ外にいるだろう白蛇が心配になる。


「千早?」


 レスタは蒼い大きな目で共に外を見て、何が気がかりなのかを聞いてきた。


「リーガ、大丈夫かな」


 ネズミの精霊ロイを肩に乗せ、レスタの大きな身体に寄りかかりながら豊かなたてがみを撫でている千早がポツリと呟く。雨から逃げるために速度を上げた馬車の振動でちょっと尻も痛かったのでかばいながらの体勢だ。


「ああ、リーガなら先ほど結界を超えている。まもなく……」

「心配されるということは案外心地よいものだな。戻ったよ、千早」


 換気にあけられていた窓からスルリと入り込んできた白蛇が、その艶やかな身体を千早に寄せて頭を頬へと擦り付けた。外気に近いヒヤリと冷たい体温に一瞬身体を震わせてから、千早は擦り付けられたリーガの首筋を優しく撫でる。


「お疲れ様」


 甘えるようなしぐさの精霊を労えば、リーガは千早の腰に巻きつき尻尾がスカートの中に入り込んでふくらはぎに絡んだ。変温動物だから寒いのだろうかと顔を覗き込むも、澄んだ金の目から読み取ることはできず、けれど白蛇は擦り付けていた頭を千早の太ももの上にゆっくりと乗せる。


「おい」


 何かしらの感情がラスニールに流れたらしいが、低い声で注意する契約者を気にすることなくリーガは気怠そうに眼を閉じた。具合でも悪いのかとショタジ……ラスニールを見上げて、真剣に見つめてくる真紅の眼差しにたじろぐ。


「総団長? 何か問題でも?」


 雨から避難したことで変更された計画を組みなおしていたジークが上司の異変に気が付いて声をかけると、男らしい太い眉を寄せ何事かを考えていた男が大きな固い手で千早の頬を撫でた。


「お前は感じるか? フィールド小隊長」


 視線は千早に向けたままで話すラスニールの質問にジークは沈黙する。それは肯定を表しているようで、漂う緊張に騎士たちの視線は三匹の精霊に囲まれた女性に注がれた。


「一体何を」


 言っているのかと問いかけようとした千早の言葉を、感情を抑えるような震える声が遮る。


「親愛の情を……感じます。彼女に出会ってから……今も」


 濡れたマントを脱いでいるため遮るもののないジークの目じりははっきりと赤く染まり、熱を含んだ視線はまっすぐ千早に向けられていた。


「……今までよく我慢したな」


 呆れたような、称賛するような、複雑な感情を浮かべて部下を見たラスニールに、ジークは軽く頭を振ってから切れ長の目に浮かんでいた熱を隠す。そして低くて良く通る声が淡々と内情を告げた。


「ロイの感情を受けているのは判っていましたので、自分を見失わずに済んでいます。任務に支障をきたすようなら一時的に繋がりを切る予定でした」


 自分の名前が出て千早の肩で髪に潜り込んでいたネズミが何事かと顔を出すのと同時に、ようやく事態を把握した千早の頬が赤く染まる。それを見たラスニールは獲物を前にした肉食獣のような攻撃的な笑みを浮かべて、千早の頬に当てていた手を顎にかけ持ち上げた。


「今その表情はまずいな、チハヤ。それじゃぁ喰ってくれと言ってるようなもんだ。フィールド小隊長の努力も台無しになる……ああ、くそっ! リーガも止めろ! 食欲と性欲は直結するんだよ!」


 後半は焦りのためか顎を掴んでいた固い手に力を籠められ千早は微かにうめいた。するとそれまで沈黙を貫いていたレスタが頭を上げて周囲を一瞥し、リーガとロイも千早にかけられた手を見つめる。


「ラスニール・ド・クラウンベルド」

「ラス」

「クラウンベルドのおっさん」


 精霊たちに名を呼ばれて正気に戻ったようなラスニールは慌てて手を離すと、片手を紅潮した顔を隠すように当てて大きく深呼吸を繰り返した。


「私とロイの魔法的繋がりはほとんどないので、おそらく総団長ほど影響は受けておりません。離れれば更に、です」


 心配そうに見つめる騎士の面々はジークの言葉を黙って聞いていて、今は口を出すべきではないということなのだろう。メイサとリズが黙ったまま淹れたてのお茶を配り、千早に気遣うように視線を向けてくる。受け取りながら大丈夫だと微笑んでいる間にもラスニールとジークの話は更に続いた。


「今までにあったか?」

「いいえ」

「リーガの気に入りようも凄い」

「ロイもです」


 そう言って。今までの熱い眼差しはなんだったのかと思うほど生ぬるい二人の視線が遠慮なく千早に向けられる。


「え? なに?」


 ジークの衝撃の告白からようやく立ち直った千早は自分を見つめる洋紅色(カーマイン)空色(スカイブルー)の目を交互に見て、更にどういうことかとレスタを見返した。


「レスタ?」

「私はそなたが愛おしい」


 つまり詳しいことはレスタも判っていないということだろう。ロイヤルブルーの目でそんなに甘く見つめられても困ってしまうと、耳まで赤くなりながらたてがみに顔を埋めると両脇から大きなため息が聞こえた。


「とりあえず陛下から依頼された件はこれでどうにかなりそうだ。俺は弱体化すればそれほどリーガの影響を受けずに済むから自制は効くが、他の連中には一応声をかけておく。お前は……」

「私も自制します。決して彼女の意思を無視するようなことはしません」

「まぁ、それしかねぇんだろうなぁ」


 凛々しく宣言したジークに比べてどこか投げやり気味に頭を掻く大人姿のラスニールは、これまで見たこともないほどだるそうに結論を出したのだった。


「お前は俺の性癖に驚かないんだな」

「? 男も女もってやつですか?」

「正確には『男』の方だが」

「残念ながら私のいた世界にもあったのでそれほど驚くことはありません。ただ、実際に会うのは初めてです」

「その割には拒否感もないな」

「どう頑張っても女の私に『男同士』は無理ですからね。それこそファンタジーの話ですよ」

「ふぁんたじー?」

「空想や幻想って意味です。貴方に女同士をやれっていっても絶対無理でしょ?」

「まぁな」

「それに異世界に落ちたなんてファンタジーを経験すれば、男同士の絡みなんて可愛いものですからね」


【次回嘘予告】

「無事王都に着いたなぁ。チハヤ、ケツは無事だったか?」

「ええ、ラスニール騎士総団長閣下! レスタが舐めて治してくれたので平気です」

「は……」

「レスタの舌ってザラザラしているんですが、とっても優しく舐めてくれました。大きな舌で何度も舐めてくれるので癖になりそうです」

「……悪かった……すまない。女性に言う冗談ではなかった……」

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