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#098:会戦の、カーディナルレッド

 夜明けがほど近く迫った頃、五十数名からなる「先発隊」の行軍は再開された。


<……奴の『根城』とやらが近い。気を抜かず左右、後方の見張りもぬかるな>


 先頭を行く「キャリアー」から、カァージの落ち着きを持った声が、各自のインカムに送られてくる。万が一、敵の総大将「骨鱗コツリン」と正面から出くわした際に備え、「ジェネシス」を即時展開できる最前列に陣取るカァージとアルゼであった。


 辺りは風が強まってきている。青白い砂塵が、渦を巻くようにして視界を狭めてもいた。広がる砂漠は、いまだ静寂を保っているかのように見える。その存在が確認されたとされる「根城」なるものがどこにあるのかは大まかな位置は掴めているものの、地表からあからさまな建造物的な目印が視認できるわけでもなく、気は抜きようもない面々なのであった。


 その時、


「……流石にあちらさんも気づいたようだぜ。集団で……来るっ!!」


 一行の右サイドバック辺りで索敵行動をしていたミザイヤとその愛機「ストライド」は、その地面に接する巨大な脚部から、地鳴りのような異変を、他の誰よりも鋭敏に感じ取っていた。自分の周りの面々に注意を促しつつ、両脚を平行近くまで開き切り、膝を曲げ、腰を落とした臨戦態勢を整える。


「止まれ!! 散開の上、各個撃破に当たる。本部っ!! 敵の詳細は出るかっ!!」


 カァージは自ら乗る「キャリアー」の前進を止めさせると、指示を仰ぐため、インカムに怒鳴る。


<……『ベザロアディム』が12、いや13!! 地中を移動しているが、結構な速度ですっ!!>


 打てば響く本部ルフトの返答に、カァージは軽く息をつくと背後に鎮座する鋼鉄兵機に既に乗り込んでいるであろうパイロットに指示を飛ばす。


「『ジェネシス』っ!! 出ろっ!!」


 もはや細かいことは告げないことにし、全ては操縦士の一存に賭けているその指示は曖昧この上なかったものの、それすら見越したような反応速度で、キャリアーに積まれていた「ジェネシス」の人型の巨大な体躯は既に始動していた。


「……『ニュージェネシス』……推参」


 興奮を押し殺したかのような呟きで、そのコクピットで呼吸を整えていたアルゼがそう言い放つ。ゆらりと、まるで本当の人間が立ち上がるかのような仕草で、見上げる高さの人型鋼鉄兵機、「ジェネシス」はその威容を周りに知らしめるかのように立ち上がる。


 その右腕は謎の金属生命体、オミロパシィタが擬態(本人は『変折』と言っていたが)し、近くで見ても異状は特に感じられない仕上がりとなっていた。「光力」を流し続ければ「硬化」「稼働」が可能となるとアルゼは述べていたが、その真価はこれからの実戦如何となると思われる。


 そしてその臀部から雄々しくぴんと生えた「鋼鉄棒」。これの運用方法は直属上官であるカァージには告げられていたものの、


<……戦術は徹頭徹尾、全力で『ジェネシス』をバックアップだ。『ベザロ』が地中移動をするなぞ初耳だが、いちいち些末な事に驚いている場合ではない。各個、展開しつつ、敵の攪乱、足止めに当たれ>


 カァージは全隊にそう告げると、『キャリアー』に積まれた武装のひとつを立ち上げる。文字通り立ち上がるように天に向けて直角に掲げられたそれは、巨大なライフル銃のような形状をしていた。


<銃は……あいつに喰われたんじゃ>


 アルゼにはその存在は告げられていなかったようで、戸惑いの声が漏れ出てくるものの、


<……私物として保管しているけったいなマニアがソディバラにいたそうでな。Ⅱ騎の計らいで譲与されたそうだ。詳しいところは知らんし、知る必要もないが、うちの精鋭たちが突貫で、使用可能な状態……さらに、前のお前好みの調整で万全のチューニングを施してあるそうだ。『骨鱗』には威嚇にもならんだろうが、他の雑魚どもには有効と見て、使用を許可する>


 カァージは殊更感情を滲ませないように淡々とそう告げる。


<了解>


 ありがとうございます、と心の中で呟いてから、アルゼの乗るジェネシスの右腕が、何の躊躇も無く、その無駄のないフォルムの猟銃を掴み取る。よしいける、と「右手」との連携に問題ないことを確認すると、


「いくぞぉあああっ!!」


 戦闘モードに移行したアルゼは、ライフルを構え、腰を落として周囲を伺う。徐々に地響きが大きく聞こえるようになってきた。


(まずは前座……ここで躓くわけにはいかねえよな。俺の『ニューストライド』も、存分に前線を張れるっつーことを見せてやるぜ)


 作戦からは少し蚊帳の外気味の、ミザイヤと「ニュー」ストライドも、臨戦態勢を保ったまま、その長大な脚部をがに股で行うスクワットのように屈伸させてみせていた。


 相手の出方を見守る中、一行の展開する陣形を取り囲むようにして、随所で砂の柱のようなものが噴出してくる。


 戦闘が始まった。


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