#097:行程の、ウィステリア
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出立から半日。そろそろ日も暮れる頃合いであり、これ以上の進軍は無謀という判断から、一行は砂漠の真ん中あたりでキャンプを張ることとなったようだ。
見渡す限りの「青白い」砂。それは陽光が収まるにつれ、透き通るような光を発しているかのように見えた。徐々に闇に包まれてくる空との対比で、さらに浮かび上がるように果てしなく広がっていくようにも感じられる。その静謐で幻想的な雰囲気に、ジンは思わずゴーグルを外して見入っているものの、他の面々もこの地域まで来るのは稀なのか、口々におお、などの吐息混じりの歓声を上げていたりする。
その周りに何も見当たらないほどの広大な「砂漠」の中に、巨大人型鋼鉄兵機、「ジェネシス」を積んだトレーラー(『キャリアー』と呼称されている)が停められている。その何気なく停車されたところを中心に、円周ぐるりを同行してきたクルマが囲んでいるような状態だ。長丁場は想定の範囲内ではあったろうが、ソディバラのかっちりとした軍用テントの整然とした並びに比べ、アクスウェルの方は割と自由な感じで、キャンプを楽しんでいる、みたいな雰囲気が感じ取れる。そして早々に夕食の支度を始めているようだ。
「……ジンさンも駆り出すこトになって、申し訳なイのことネー」
豪快に何の肉かは分からないが鉄板で焼き始めたジカルが、言葉ほどには申し訳なさそうな感じもさせずにそう言う。
「いえ、僕はお荷物になっていないかが心配ですけど。きっと何らかのお役には立てるよう頑張ります」
殊勝にそう返すジン。未だ「アソォカゥ」で出会った「同郷」と思われる者たちのことは引きずっていたものの、切り替えて今の場に臨む、との強い決意のもと、ここ最前線に半分志願するかたちで出張っている。残る半分はアルゼの強引な誘引によるものでもあったが。
「ジンはー、私よりも、ずっと『光力』をうまく使いこなせる気がするネ。でかい兵機もぶん回せるようになりそうー」
そのアルゼは当然のようにジンの左隣に陣取って、飲み物をお酌したり、小皿に肉を取り分けたりと色々かいがいしく立ち回っている。いやいや、それは無いって、と口許まで肉を運ばれながらジンは慌ててそう返すものの、
「あると思うナー……私は」
間近でそんな可愛らしい少女に呟かれつつ微笑まれると、何か死ぬほど頑張ってみようかな……みたいな気持ちになるのも確かなのであった。実際に今は黒いイバラのような「補助装置」を付けていないのだが、体の奥底に「光力」をほんのわずかだが「練る」ということが出来るようにはなっている。あとは何かのきっかけでタガが外れんじゃねえの? など、ミザイヤ辺りからもそんな評価を賜っているのであった。
そのミザイヤも完全復調した愛機「ストライド」と共に、この先発隊に早くも合流してきた。断裂していた駆動部のパーツもどこからか調達できたようで、これまでの全行程をその二足歩行の機械で歩き通してくるという、常人離れしたというか、常人なら呆れて物も言いたくないという感想を抱くほどの荒行と思われるのだが、本人は至って淡々とこなした上で、今は食事も取らずにメンテナンスに忙しそうな感じである。




