#095:先発の、ポピーレッド
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「作戦会議」から一夜明け……
「女王」たる「骨鱗」を殲滅しないことには、状況は日増しにジリ貧になる、との司令の判断により、少し唐突にも思える掃討作戦の命が、アクスウェル地区自警の面々および、隣地区のソディバラ地区自警に出されたのであった。
他の地区……西方のレイズン、北方のイスプリート、アソォカゥよりさらに東方の沿岸部に位置するラングベルチア……比較的友好を保っており、有事の際には互いに共闘する契約を交わしている地区自警への打診は既に行っているものの、向こうは向こうで「マ」の者たちの絶え間ない襲撃を受けているとの報告もあって、派遣されてくる気配は一向に見えない。
ジンの故郷の単位で表すと、縦4000km、横3000kmの、これまたジンの故郷たる「地球」の類似した大陸で比喩すると、正に「オーストラリア大陸」くらいの大きさのこの「大陸」は、表面上な騒乱ではないものの、静かで異質な、未曾有の危機を迎えていると言っても過言ではないのであった。
「……『光力』レベル良好……右腕部、動作良好……」
そんな状況の中、変わらずポジティブ全開の様子で、アルゼは緊張と覇気が漲った報告を送ってきている。
失われた右腕部には、金属生命体であるオミロを「腕形状」に展開させている。自らの質量以上のものには基本「変化」出来ない彼ではあったが、形だけのハリボテでも構わないとのアルゼの意向により、本人はいやいやながらも、遠目には完全に「模造」することが出来ているように見える。極限とまではいかないが、厚紙くらいの薄さで何とかその形状を保っているといった状態である。
実際には完全なハリボテでは無く、「光力」を流し続けることで「硬化」「稼働」させることが可能とはアルゼ自身の弁ではあるが、かなりのエネルギーも食うとのことで、おそらくはここ一番での使用になると、指揮官であるカァージは踏んでいる。
一路、ジェネシスを積んだ大型トレーラーのような形状の「キャリアー」は、他の先発隊と共に、アクスウェル南部に広がる台地を越えて、その先の「中央ポーセルノア砂漠」に進路を取っている。大陸中央に広がるそこは不毛の地であることもあり、人が訪れることはほとんど無い。外地を周るジカルでさえ、その砂漠の外周をバイクでなぞるくらいである。
それだけに今回の作戦は、地の利が無い上に土地勘もほぼゼロという、初っ端からのハンデを背負ってると言える。だがその作戦の中心に位置するだろう鋼鉄兵機のパイロット……アルゼは、市街地よりは開けた場所での戦闘の方が楽だし私には向いてるかも、というような割と根拠は薄そうな自信をみなぎらせているのであった。
毎度毎度の「土下座姿勢」でキャリアーに鎮座している人型鋼鉄兵機ジェネシス。効率的な輸送のためには致し方ないことではあるが、今回はその臀部あたりから、金属製の「棒」が尻尾さながら、後方へと突き出しているという、さらに珍妙さに拍車がかかるフォルムとなっている。
アルゼが発注した、曰く「新武装」であるところの、頑強な金属を職人技で削り磨き上げた見た目からしても逸品なそれは、適度な光を帯びながら、異様、という意味でも存在感を放っているのであった。