#094:厳然の、リバーブルー
「いや、出来る」
アルゼの顔つきは普段のあどけなさ残る少女という体では全く無くなっており、鬼教官的な「気合いで何とかなる」思考に乗っ取られているかのような、頑なな何かを醸しているように見える。
少女はきっぱりと「可能」を言い放ったものの、当のオミロには全く響いていないようで、そのミニチュアロボット形態の金属生命体は、自分の有りようを棚に上げかけるほどに「摩訶不思議ですやん」感を体現しており、饒舌な彼には珍しく、何か言いたげに両手を意味なく動かしたりするばかりである。
「……アルゼ。ジェネシスの前腕部は少なく見積もって、その何とかという機械人形の百倍はある。とても代わりになるとは思えん」
途中でオミロちゃんやで、と合いの手のようなものが入るのを完全に無視しながらも、カァージは、きっぱりとそう言い切る。
「……オミロは極限まで薄く拡がることが出来ます。中は空洞でも、腕型を形成すること、それは可能だと思うんです。そうよね、オミロ?」
アルゼから、一転した優し気な声をかけられ、かえって恐怖を感じているような機械人形オミロが、は、はイそらもウ……のような、いやに恐縮した口調でおずおずとそう首肯する。
「だが、そんなハリボテが何の役に立つ? 強度も見込めないそのような見かけ倒しが通用する相手とも思えんが?」
カァージの脳裏に、羽毛のように舞い、凄まじい速度と強度を持って「捕食」を行う「骨鱗」の姿が浮かぶ。確かに、見かけ云々に左右されるタマには思えない、と改めてそう思うカァージだが、
「『光力』を流し続ければ『硬化』が可能なことは、既にこのオミロで証明済みです」
畳みかけるアルゼの言葉に、絶句してしまう。いつの間に……みたいな空気が一同の間に流れ、他ならぬオミロも、ええ~、そンな素振りありまシた~? のような、驚愕の余り気が抜けてしまった声を発するにとどまっている。
ジェネシスでも、時たま、やってました。それによって思わぬ貫通力や防御力を生みだしてー、敵の攪乱を狙ったりとかー、いろいろ私も研究してるんですよっ、と可愛げに得意気にそう補足するアルゼだったが、あの極限の戦闘状態で……と、一同の驚愕を超えた畏怖を買うことになるだけなのであった。
「戦闘の間、常に『光力』を発し続ける? 呼吸を止めて全力疾走し続けるのに近い負荷だぞ? その上で冷静な判断や精密な動きが出来るとはとても思えん」
カァージも驚きは感じたものの、ことこのアルゼに関しては、それ以上の期待をかけてしまうくらいになっている。試すようにそう冷徹に返したが、その口許は彼女には珍しく少しの微笑を湛えていた。
「……間欠的に出したり止めたりすれば、かなりの時間、保てます……息継ぎするように。あとはオミロを細い糸状に展開することで、ジェネシスの稼働を迅速化することも可能になると、考えています。外付けの『蓄光バッテリー』もかなり使うことになってしまうと思いますけど、『奴』を仕留められるのは多分、ジェネシスしかいないから」
司令すら唖然とする一同の前で、真摯な顔つきで力強くそう言い放つアルゼ。カァージはひとり、遂に小さく声を出して笑い始めている。