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#090:浸透の、露草



 小銃を構えた屈強なガタイのつなぎ男―モールとの距離を瞬時に詰めたアルゼは、全身を物々しい、そして重々しい金属鎧―オミロの「変化」したものだ―に固めながらも、その身体能力は増しているかのように見える。


「!!」


 沈着を保っていたモールも、その荒唐無稽さと見た目にそぐわない素早さに一瞬対応が遅れたようだ。あっさりと銃口を金属の「爪」のような手にがっきと掴まれ、そのままあらぬ方向へと向かされてしまう。


「すごいよオミロ!! これ何かジェネちゃんに乗ってるかのような一体感だよ!!」


 緊迫した局面でありながらも、こと「兵機」がらみのこととなると高揚が抑えきれないアルゼの弾んだ声が、ホール状の空間に響いていく。アクスウェル他の面々もそれぞれが行動を開始していた。


「深追いすんなよアルゼ、この場はずらかるぞ」


 ミザイヤは意外に冷静に撤退の指示を仲間に出すと、小銃を掴み合って硬直しているアルゼとモールは置いて、玉座に未だ悠然と座り続ける黒髪のうら若き女性―ファミィと対峙する。一歩踏み出せば掴みかかれる間合いまでミザイヤに接近されつつも、その顔に貼り付いたような微笑は崩れない。


「……交渉決裂と。では日時と場所を改めて、またお会いしましょう」


 深く腰かけていた体勢から、糸で吊られるかのようにすっと立ち上がったファミィは、ミザイヤにも通じる言葉に切り替えてそうのたまうが、今度があるかな? と青白い金属の床を蹴ってミザイヤはその右から飛びかかっている。しかし、


「!!」


 瞬間、その視界からかき消えたと思われたその華奢な体躯は、白いローブのような服の残像から、かろうじて上方向に移動したと目では追えたくらいの俊敏かつ意外な動きを見せる。


(体さばきが……並じゃねえ)


 思考の範疇外の動きであり、ミザイヤは慌てて視線を上げるが、ホールの高い天蓋のぐるりに渡された細い足場にファミィはブレもせず佇んでおり、相変わらずの静かなる余裕、のようなものを醸し出していた。その手は背後の壁面に埋め込まれた何かしらの装置のパネルに既に触れられており、まずい、とミザイヤが思った時には起動が始まっている。


「なっ!?」


 次の瞬間、天井や壁から突き出されてきたノズル状のものから、冷たく細かい水滴が、ホール全体を覆うかのように勢いよく噴霧されてきた。経験から有毒なガスではと鼻と口をかばおうとするジカルとフォーティアだったが、味方まで巻き込むか? との疑問に、ただの攪乱に過ぎないと瞬時に判断すると、頭上で細い足場を事もなげに軽い歩調で巡るファミィを追おうと一歩を踏み出す。


(え?)


 しかしその体は、服が水を吸った、だけとは思えないほどに急激に重みを増しており、さらには体から、それを動かすための熱量が抜けていくのを頭の先から爪先まで感じるに伴い、二人共バランスを崩して床に倒れ伏してしまう。


 見るとミザイヤも、その援護に回ろうとしていたボランドーも同じようにその場でひざまずいて動きを止めている。視界もぼやけてきた中、ジカルは思いがけない強い力で自分の身体が担ぎ上げられたのを察知した。


「!!」


 自分を肩に乗せたのは、あの少年然とした(実際に少年だが)ジンであることを確認しつつも、ええー、ジンさんこんなに力持ちだったのねーと、自分と反対側の肩に乗せられたフォーティアと力の抜けた顔を見合わせ驚く。そして、何でこの「霧」の中、動けるのだろう……というような疑問も挟みつつ、徐々にジカルの意識は切れ掠れていくのであった。


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