#080:屈折の、オイスターホワイト
「Ⅱ騎ぃっ!! 援護をっ、いたします!!」
いきなり背後から大声を浴びせるなバカ、という叱責も出来ずに、ただ前の「紙状」の金属を見やるしかできないミザイヤ。面積は、ジンの故郷で言うところの「一畳」分くらいだろうか。脈打っていた表面は今は凪いでいる。
背後のクルマからどうやら狙撃用の大物を引き出しているボランド―の様子が目に浮かぶが、弾丸の大小、あるいは弾速や諸々などは関係なく、一律で銃弾系の「攻撃」は効かなそうな雰囲気を、歴戦の勘のようなものでミザイヤは感じ取っていた。
後ろ手で、ちょっと待てという合図を出すと、小銃を後方に投げ渡す。そしてその動作の流れのまま、ミザイヤは腰ベルトのホルダーに差し込んでいた幅広のナイフを右手で抜き出した。
刃渡りはわずか、その柄を握るミザイヤの四本並べた指の幅くらいしかなかったが、握り込まれた瞬間、使用者の呼応に合わせてその短い刀身に、黄緑色の「光力」が螺旋を描くように飴細工のように絡みついていき、それを芯としてさらに長く伸長していく。
一瞬後、構えられたそれは、一振りのぼんやりとした光を放つ「長剣」へと変貌を遂げていた。それをゆっくりと、突きが繰り出せる構えへと持っていくミザイヤ。
(えぐるように刺し込んでみれば……突き破れるかも知れねえ)
呼吸を整えつつ、一枚の板と化した「それ」との間合いを詰めていく。その「板」はまた動く気配を失くしたようだ。ただただ路面に最初から置いてありましたよ風に転がっているような佇まいを再び見せている。
(なめやがって)
突き込める間合いに達した瞬間、ミザイヤの細身の体がふわりと跳躍した。
「らあっ!!」
上空の一点に達するや、気合い一発、脇で固めた「剣」を両手で保持したまま、眼下の「板」に飛び掛かる。「板」に相変わらず動きは見られない。入った、とミザイヤが確信し、「光力」を練った刃先が「板」へと到達していく。
その時だった。
「!!」
鋭い切っ先の衝撃を受けて、「板」の真ん中がたわんだ、そのように見えた。しかし、
「!?」
それは「板」の自発的な動きだった。真ん中で「折れる」ようにその刃を噛み込むと、そのまま咀嚼するかのような挙動で、「光力の刃」を自身の体内に取り込んでしまう。
(喰ったってことは……間違いねえ。こいつはあの『骨鱗』と同種のやつ。何でまたこんなところに)
ミザイヤは素早く手と体を引き、砂の上に着地すると、いま一度、刀身に光力を絡ませるように練り上げていく。
「板」はまた、開き直ったかのように蠢き出した。来るか? とミザイヤが構えを受けに移行させようとするが、
「!!」
そんな殺気も意に介していないように、「板」は今度も迷いの無さそうな動きを見せ始める。その「全身」が半分に折れたり、それがまた戻りその「折り目」に沿ってまた折れ曲がったり……
(あれ……おりがみ?)
車中のジンが遠目に見ても、その様態は彼に馴染みのあるまさしくのそれなのであった。呆気に取られる一同の眼前で、「板」は高速でその姿を複雑で立体的なものへと変化していく。




