#072:代替の、錆御納戸
#072:代替の、錆御納戸
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鋼鉄兵機パイロット少女―アルゼと、ジンこと「来訪者」烙雲 稔が行動を共にすることになった経緯については、少し遡ることとなる。
「ベザロアディム」襲来、そしてその内の一匹が変容した「骨鱗」の出現から四日ほどが過ぎた頃。
それからは「マ」が湧くことも無く、アクスウェル地区自警は、隣の管轄であるソディバラの支援を受け、ここ数日はつつがなく日々が流れている。
「鋼鉄兵機」の改修も急ピッチで進められており、オセルの搭乗機「ステイブル」は完全稼働OKの状態、ミザイヤの愛機「ストライド」も、何故か断裂していたパーツを代替出来たとのことで現場復帰、以前よりキレのある足さばきを見せていたりもする。
また、ボディの装甲全てを例の「骨鱗」にすすり飲み込まれた「ヴェロシティ(エディロア搭乗)」は、現在はその球体の部分に仮のシートを張っただけではあるものの、その俊敏な動作は問題なく行えることが可能とのことで、パイロットに至っては「前より軽くなった分、より三次元的な展開ができる」と評しているくらいであった。
そうなると問題はやはり、その右腕を同じく「骨鱗」に食われてしまった「ジェネシス」であり、この「太古からの完全出土品」である本機は、代替するパーツも存在せず、右肘から下が欠けた状態のままなのであった。
「人」を模していて、それがゆえ、その手および腕の精密な稼働は、「多種多様な武器の取り扱い」「機体を自在に固定できる冶具」といった機能を担う、この機体の生命線とも言うべき重要な物であり、その片方が失われた今、削がれた「戦闘力」をどう補うか、それがこのジェネシスを統括するカァージにとって、頭の痛いところなのであった。
しかし、
「……カァージさん、例えばなんですが、右腕にアタッチメントを装着してですね……オケージョンに合わせて、その時その時で様々な機能を持った……何かに特化していた方がいいかもです……「義手」みたいなものをとっかえひっかえしていくというのはどうでしょう?」
丸四日くらいの昏睡から目覚めた第一声がそれだった当のジェネシスのパイロット、アルゼ=ロナは、周りからの頭打ったの? みたいな労わりや気遣いを物ともせず、そんな前向きな発想を開陳するのであった。
その言葉を聞いて、何か感じるところがあった上官のカァージは、そのアイデアが霧散しないうちに、と、自らのチームを招集したのである。
場所は本棟2Fの会議室。ジェネシスを稼働させるための整備や調整を担う面子が十名ほど集められていた。
技術者たちはその少女の提案に、あまりぴんと来ない顔を並べていたものの、カァージはひとり、そこに活路があるような感じを掴んでいた。
「さっき、ジェネちゃんに乗って試動させてみたんですけど、右腕、ぶっとい『神経』みたいな『稼働部』は生きていて、だから、精密な動きは無理なんですけど、『ON/OFF』くらいは出来るっぽいんですよね」
言いたい事が何となく分かってきたカァージを始めとする技術畑の面々たちの顔つきが変わった。この見た目は小さい女の子然としたアルゼの別角度からのアイデアに、内心、舌を巻くばかりで、相槌も打てないでいる。そんな周りのリアクションも気にせず、アルゼは伝えたいことを伝えたいだけ、のような熱意のこもった目で続ける。
「……切断部にアタッチメントを被せ、『神経』につないで、例えば『引き金をひく』みたいな動作が出来るようにしたら……そのアタッチメントに『銃の義手』を嵌め込むことで、実質『銃を持つ』のと大差なくなると思うんです。むしろ固定位置が一定になる分、毎度毎度のブレは少なくなる」
こと「兵機」のこととなると、真剣で凛々しい顔つきになるアルゼは、どこぞの兵機オタクたちとは違って、真摯に自らの仕事に向き合い、アクシデントがあっても、それを覆すような、有用な代替運用方法を考えているのであった。