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#071:徘徊の、プラム

#071:徘徊の、プラム


 「ソディバラ」という地区の自警組織が、ジカルさんの所属するここ、「アクスウェル地区自警」に、駐在? のような形でサポートに入るようになってから早十日が過ぎていた。


 「マ」と呼ばれる怪物たちの動きも沈静化しているとのことで、ここ数日間、僕は「アクスウェル」の城塞都市のような街並を比較的自由に見て回れるようになっていたのであった。


 北方が山に面する形で、その両裾から、20メートルはあるんじゃないのくらいの見上げる高さで、石造りの「城壁」がぐるりを囲む。


 地区の敷地内は、壁沿いに畑らしき土地がずーっと幅広の道のように巡っているのが物珍しい感じがするけど、植わっている作物は、麦のような、とうもろこしのような、何というか見慣れた形のものも多く安心する。ただ、地球上で緑色だったものが、軒並みここでは鮮やかな青色をしているというのが、この地に漂着した時からまだ違和感として僕の頭では認識されているけれど。


 一方で、その「畑道」の内側の居住区に関しては、もう雑多としか言いようがないくらいで、建物がこれでもかとぎゅう詰めに連なっている治安悪そうな区画もあれば、結構なスペースを取ってきちんと整備された森林公園があったり、地区自警本部のある中央近辺には、活気のある商店街が立ち並んでいる。


 コンパクトな街づくりといった印象で、もちろん外敵から住民を守るためにそうしているのだろうけど、細い道なんか奥まった所で三叉に分岐していたりで、ナビが無いととてもじゃないけど、確実に方向感覚を失ってしまう。


 数日前から、ようやく車椅子から解放されて自分の脚で歩けるようになった僕だが、やはり体に感じる重力は、僕自身が前から知覚していたものよりも、未だに、ごく弱く感じられている。


 腰落とし、アンド摺り足気味、で特に踵をだらしなく引きずるようにして足を運ぶと、うまいこと体が前に無駄なく進むことを体得した僕は、ジカルさんに連れられたり、時には一人で街中を出歩いたりと、結構自由に行動するようにまでなっていた。


 ただ、常にヘルメットとゴーグルは着用している。ここの今は、ひんやりと爽やかな気候なのだけれど、やっぱりずっと被っていると頭頂部あたりが非常に蒸して痒いし、何より頭部と顔面が覆われているのは煩わしい。


 でも、どうやら僕の平均的日本人顔(と思う)は、例の「アソォカゥ」の人たちに酷似しているらしく、先日のエトォダさんのように明確な敵意や、そうはいかないまでも、ある程度の嫌悪感を持たれたりすることが多いみたいで、無用なトラブルを避けるためにも、しょうがないと割り切ることにしている。


 さらに特別にお借りした「地区自警」のカーキ色の制服を着込んで、街をうろつくことを、さもパトロールしてますよ風に装っていて、何となく僕はこの「街」に溶け込んでいるのであった。


 言葉にはまだ不自由な部分が多々あるものの、ジカルさんを始め、「日本語」によく似た「アソォカゥ語」(?)で会話してくれる人が三人もいてくれるので、意思の疎通が図れないといったことはない。僕の方も、ここの言葉(レイズン語、というそうだ)を挨拶や単語などから積極的に学んで、会話に取り入れようと頑張っている。


 人間必要に迫られると物凄い吸収力を発揮するなあ、と自分でも驚いているけれど、学校の勉強もこのくらいやってりゃあ、特Aにだって入れてたのにね。


 いや、まあとにかく、この地、「この世界」でどう動いていくかも考えないとだよ……


 突然襲ってくる現実感に、胸の辺りをじんわり嫌な熱を沸き起こされながらも、僕は間近に迫った「アソォカゥ」への旅支度を整えるために、今日も街に繰り出しているのであった。


「……」


 僕の右横から、陽気な鼻歌が聞こえてくる。


 そちらを向くと、その鼻歌の主である可愛らしい女の子から、にこりと満面の笑みを返された。そして嬉しそうに矢継ぎ早に何かをまくし立てて来るものの、いやいやそんな早くは聞き取れないって。


 アルゼ、という僕と同年代というその華奢で僕より背の低い女の子は、あの人型巨大ロボットのパイロットだ。あんなごついのをよく操縦できるな、と思うけど、普段はこうして明るく元気な感じの普通の女の子だ。


 そして僕はこのコに何故か気に入られているらしく、最近では何かと一緒に行動することが多くなっている。言葉はあまり通じないけど、それでも向けられている好意は分かるわけで、要は何というか、うん、僕もアルゼといると凄い楽しい気分になる。



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