#063:凄惨の、マロー
#063:凄惨の、マロー
執務室内は、静謐な空気に満たされている。開いた窓からは時折、金属と金属が打ち合わされるような音が聞こえてくるものの、それすらも余韻を以て静寂を際立たせているかのようだった。
固唾を飲んで話の続きを待つルフトだったが、しばしティーカップに注がれた黒みがかった飲み物に集中しているカヴィラは、まるで、じらすかのように、この静寂をも味わっているかのようだ。
「……まあ結論から言っちまうと、『そいつ』は『マ』の者だったわけよ」
と、唐突にベンロァの枯れた声が一同の耳に飛び込んでくる。
ええー、そこ端折る? と、緩急極まるその二人の語りに、軽く膝を落としそうになるルフト。
「全身が炭化したかのような、所々白く光る黒、みたいな、そんな見たこともない色合い風合いのその人物は、私がふん、とお腹に力を込めてやっと動かせるほどの重さだった。仰向けに抱き起したその顔は、目は小さいのだけれど、鼻や口は大きくて……でも整った顔、と思ったのを覚えている。若い男のような風貌をしていた。瞼を閉じたその「炭化した男」は、私の声に一瞬、身をよじらせると、次の瞬間、目を見開いて私から飛び退ったわ」
カヴィラがその後を引き継いで、何事もなかったように話を続けた。この二人は本当いいコンビなのかも知れない、とルフトはそんな事を考える。
「……何事か、確かにその口から……ああ、口の中は赤い色をしていたのを覚えているわ。何事か、私たちにはわからない言葉を、切実な感じで発していた。私たちもいろいろと話しかけてみたのだけれど、あちらにも全く伝わっていない様子で……その『炭化した男』は苛立った表情を浮かべると、身振りで空の方を指した。それも意味はわからなかったけど、『男』が何か警告を発しているかのように思えたの。空から何か来るの? と、私も天を指さしてそう通じない言葉で問いかけると、『男』の方も察したのか、大きく頷いたのが見てとれた」
そこで一息つくと、カヴィラはまたティーカップを口元に持っていく。
「まあ、そこで空から『化物』が降ってきたってぇわけよ」
思わずつんのめりそうになるルフト。何かわざとやってないか、この二人、とその様式美に彩られていそうな、掛け合い気味の語り口に閉口してしまう。
「……翼を持った人間のような姿。でもその体の大きさは、私たちの三倍は優にあった。そして突如現れた『そいつ』もまた、炭のような質感に全身を覆われていた」
カヴィラの話は淡々と続くが、どうやら佳境に入ったようだ。その横顔が鋭さを増したようにルフトは感じた。
「逃げろ、みたいな事を叫んだんでしょう。地上の『男』はそう言葉を発するなり、上空の『そいつ』に向けて跳躍した。見上げるほどの高さを、ひと跳びで詰めると、『男』は腰のあたりから短い『棒』のようなものを引き抜いて『そいつ』にぶち当てた。激しい『黒い光』が上から私たちに向けても降り注いだわ。でも『そいつ』は全く動じる様子も見せずに、ゆっくりと指を揃えて伸ばすと、いきなり手刀でその『男』の首を跳ね飛ばした」
何か物騒な話になってきた、とルフトは背中の下あたりにぞわりとしたものを感じつつも、先が気になり身を心持ち前に乗り出す。




