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#061:震撼の、プルプル

#061:震撼の、プルプル


「……『闇黒アンコク』と、そう名乗っていたそうじゃない。そいつは何者なのか、ある程度の目途はついてんの?」


 籐椅子にどかりと腰を降ろすなり、ソディバラ総司令ベンロァは、そのしゃがれた低音でいきなり切り出す。適度な長さにいつの間にか収縮していた煙管を吹かしながら、挑むような目つきで相対する人物の言葉を待つ。


 その質問を受け止めたのは、自らの執務机の革張りの椅子に、ぴんとした背筋で腰かけているカヴィラ。二人の総司令はちょうど真正面から向かい合うところに位置しているが、視線の高さもほぼ変わらず、各々の微妙な表情すらも読み解かれてしまうかのような距離である。


「……二千年くらいの遥か昔に、中央大陸に存在した『リアネッカ国』の言葉を話す、謎の生命体……って言ったら、何らか分かるかしら?」


 慎重に言葉を選ぶかのように、それに応じたカヴィラの声は、真剣さは勿論伴ってはいるものの、直面した浮世離れ感に少し面食らっているような響きも潜んでいるように思えた。


 カヴィラの放った答えに、しばしの沈黙が室内を覆う。それぞれの従者は、主の座っている場所よりも半歩後ろくらいで畏まっていたが、話の行き着くところは全く想定もつかないので、お互い押し黙ったまま、己の上官の言葉を待っている状態であった。


 先ほど「エトォダ」と呼ばれた物々しい甲冑で全身を包んだ人物の方を、ルフトはちらりと上目遣いで伺ってみるものの、フルフェイスの兜は、その表情はおろか、どのような顔貌をしているのかも伺わせない。よくよく見ると、先ほどまで何体もいた「鎧兵」たちのものとは、デザインや質感が少し異なって見える。


(この人だけ特別ということか……多分、あの『鎧』たちを束ねる立場にあるんだろう。それにしても……)


 と、ルフトは一歩退いて、そのエトォダの全身を見つめる。無言で鎮座されていると、そこに以前から置かれていたような鎧のオブジェのように思えるくらい、身じろぎもせずただそこに立ち尽くしている姿は、本当に中身人間? と思わせるほどの無機質感である。

 そして場が沈黙……静寂に包まれたから分かったことだが、その「鎧」からは断続的に金属同士がすり合うような微かな音がしているのであった。


(いやひょっとして、もしや機械? この『鎧』自体が出土した『鋼鉄兵機』のひとつなのかも?)


 可能性としては無くはない、と、ルフトは殊更にその「物体」に、眼鏡の奥から興味深い視線を送る。そんな逡巡を置き、


「……まったくもって、分かりゃしないけど、ひとつ、何かと似てるな、みたいな既視感を覚えたのは確か。あんたもそう感じてくれてるんなら、この馬鹿げた可能性をあたしの口から告げてやってもいいんだけどねえ」


 ベンロァは白い煙をその立派な鷲鼻から周囲にたなびかせると、再び挑むような目線を、正面に投げる。

 それを真っすぐな目で受け止めると、一瞬、微笑みにも満たない、微小な口角の上げを見せたカヴィラは、穏やかに、しかし揺るがない強さを持った言葉を放つ。


「『魔神』……って言いたいのね? 『マ』の神というニュアンスの」


 いきなり出て来た現実味の薄い単語に、思わずルフトは、横に座っているカヴィラの顔を伺ってしまう。しかし冗談や絵空事を語っているような雰囲気は微塵もなく、それだけにコトをどのように受け止めていいか、その聡明な頭脳をフルで回転させ始めるしかないのであった。



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