#060:相似の、若紫
#060:相似の、若紫
玄関ホールを突っ切って、別棟へと連なる屋根付きの長い渡り廊下を、アクスウェル総司令カヴィラが先導する。
両手を体の前で軽く重ね、すっすと滑らかな体重移動で歩むその姿は、力は感じさせないものの、隙も全く見て取れない。さすが司令、と、その半歩左後ろに付き従うルフトは嘆息する。
その背後から感じる、ソディバラ総司令ベンロァの分かりやすい迫力とはまるで正反対の、巻きあがる冷気のような圧力は、普段の執務室でのリラックスした感じとは全くもって異なるのであった。
この人はやはり底が知れない、とルフトはその凛とした後ろ姿にしばし目を奪われる。
(それにしても……)
眼鏡を押し上げる振りをしながら後方をちらと盗み見る。気怠い笑みを浮かべながら静々と歩を進めるド派手な総司令もそうだが、その後ろに二列縦隊で足並みを揃えた煌く「鎧兵」の軍団にも圧倒されるルフトだった。
なぜ平時にこんな重装備? との疑問が、その聡明な頭脳に投げかけられているものの、
(たぶん総司令の趣味……)
との結論にたどり着くと、妙に納得させられてしまう。
かくいう己の総司令も、「人型のロボット」には並々ならぬ執着を見せているわけで、この世代のカリスマ性は大したものだけれど、組織の私物化よくない! との思いにしばし思考を奪われてしまうのであった。
「……相変わらずシケた普請ねえ。資金調達も自警の仕事のうちだと、あたしゃ思うんだけども」
通された「執務室」は総司令カヴィラの居室であるが、ベンロァが言う通り、余分な飾りものなどは全くない、シンプルな部屋である。
大きめのデスクとゆったりとした革張りの肘掛け付きデスクチェア、そしてその前に四脚の一人掛けのソファとローテーブルが置かれている。開け放たれた窓からは清浄な風が吹き込んで来ており、この部屋の無駄のない透明感のようなものを、より際立たせているかのようにも思える。部屋の主と同様、何かを伺わせる、ということがあまりない部屋であった。
しかし、
「運びな」
ベンロァが低い声でそう言うと共に、「鎧兵」が二人がかりで運んで来た籐製の派手な装飾の施された椅子が、別の者によって壁側に避けられていた応接セットがあった空間にどさりと置かれる。
「……」
その徹底した絢爛豪華主義に、さしものルフトも真顔にならざるを得ないのであった。
「……エトォダ以外は退がりな」
ベンロァはあくまで短く命令を発するだけだが、それを先読みしているかのように、「鎧兵」たちは速やかに部屋の出入り口から窮屈そうに出ていく。
後に残されたのは二人の総司令と、未だ圧倒されたままのルフト、そして、
「……」
「鎧兵」の一人、「エトォダ」と呼ばれた、ひときわ大柄の人物だけ。全身を覆う鎧かぶとにより、その人物像は全くもって分からないものの、沈黙を続けていても滲み出てくるその滞留するかのような迫力に、またしてもルフトは気圧されてしまう。




