#059:対峙の、マジョリカブルー
#059:対峙の、マジョリカブルー
「お、おい、やべえぞ、何だか歩くお祭り騒ぎがやって来やがった」
これ聞えよがしに囁いたのは、今度はオセル。かろうじて制服は身に着けているものの、ぼさぼさの油染みた髪や、無精にも程がある顔の下半分を覆う髭は相変わらずであった。
オセルのその言葉に肩を震わせつつ耐える面々もいる中、
「げは」
当のオセルは、その耳ざとい「お祭り騒ぎ」張本人からの鋭い一撃を喰らって、鼻血をこれでもかというくらい、周りに飛び散らせる。
ソディバラ総司令ベンロァの、左手に優雅に構えられた煙管が火を吹いたのであった。
伸縮自在の、どういった機構になっているかは不明だが、御守り刀代わりのその得物は、対「マ」というよりは、身内の不埒な者どもを成敗するために用いられることが多い。
歴戦の兵たちの動体視力でも捉えきれない、音速は超えているんじゃないかくらいのその一撃を避ける・防ぐ術は怖ろしいことに無いのであった。
白目を剥いて崩れ落ちるその哀れな同僚を目にし、直立不動の度合いを高めるアクスウェルの面々。その中をずいずいと、斜に構えた小山のような存在感を持つきんきらきんの光を纏ったベンロァが歩んでいく。
「どいつもこいつも、なっちゃあいないねえ。こんなこったから、兵機をぼこすか失っちまうんだよ」
かなりの低音でしゃがれた声だが、さすが修羅場はくぐっていないというか、腹から出されたその不思議とよく通る声が、玄関ホールに響き渡る。と、
「……遠路はるばる、ごくろうさま。ひさしぶりだけど相変わらずね、ベンロァ」
こちらも負けず劣らず、凛としながらも静かなる迫力を持って、落ち着いた声が響く。
玄関ホールの中ほどまで進み出たベンロァに、対峙するように現れたひとつの人影。
シンプルな薄いブルーの制服をかっちりと着こなしたその立ち姿は、小柄で細身のはずであるのに、何故か大きく見える。
相対するベンロァとは正反対の、ここアクスウェル自治区の総司令の、静なるお出ましなのであった。
総司令カヴィラは作法通りの美しい敬礼をして見せると、凛々しい表情を解いて、少女のような微笑みを浮かべる。
「……カヴィラあんたもね。抗ってなさそうなのに、その若さ保ってる感も相変わらず」
いつの間にか従者の手によって火が入れられたのだろうか、撲殺兵器と思われたその長い煙管の吸い口に、鮮やかな紅を引いたその唇を一瞬近づけると、呆れのようなため息のような白い煙を吐き出すベンロァ。
先の「大戦」を戦士として立ち回り、そして生き残った稀有な二人が今、ふたつの組織の頂点を担う者として、会したのである。
巻き起こる強力なうねる波動のようなオーラのようなものが、その場に居合わせた者すべてに、圧倒的な力価を伴って、肌が粟立つほどのプレッシャーを放っているのであった。




