#058:絢爛の、ゴールデンオーカー
#058:絢爛の、ゴールデンオーカー
一夜明け。
「……何で、全員出張らなきゃいけねえんだ。やる事山積みじゃねえのかよ」
聞えよがしに悪態をつくのは、ミザイヤ。彼を含め、「士」より上の階級のものは極力、表玄関に集合との命が、他ならぬ総司令から出されているのである。制服を、きちんと着てくること、との重ねての指令があり、集まった面々は珍しく襟を正した格好をしている。
「で、でもみーくんは、近い将来あちらさんの親族になるんだし、少しでも心証を良くしておいた方が……っ」
その後ろから切実げな声を掛けたのは、フォーティア。しかしその紫色の瞳は、ここ一番のネタを掴んだ喜びで三日月が如く細められている。
ミザイヤとエディロアの間にあったことは、諸々全部が筒抜けなのであった。
昨夜いち早くその匂いを嗅ぎつけたこのフォーティアは、未だ熱に浮かされたような状態のエディロアの病室を突撃したのである。幸せいっぱいの彼女から情報を逐一引き出すのは、百戦錬磨のゴシッパーにとっては、いとも容易い仕事だったという。
そしてその日のうちに、この地区自警全体の周知となった。
「……」
そのゴシッパーの方を焼き尽くさんがばかりの視線で睨みつけながら、ミザイヤは周りから遠慮なしに囁かれる「みーくん……?」「あのみーくんが……!?」というようなこれ聞こえよがしな同僚たちの声にも耐え、ひたすらに自分を殺す作業に入っていくのであった。
そんなどこか浮ついて弛緩した空気を、どぷぉぉぉという腹に響く豪音が引き裂く。
「……!!」
吹き鳴らされた法螺貝の音色と共に、表玄関が一気に慌ただしくなる。
全身を大仰な金属の鎧で身を固めた体格の良い兵士然とした男たちが、わらわらと一斉に玄関ホール内へと殺到してきた。皆、手に手に身長より長い槍のようなものを携えた物々しさである。
圧倒されてしまうアクスウェルの面々だが、即座に向き合って二列に整列したその鎧兵たちは、ざっ、とほぼ同時に槍の尻を床面に突き立ててから直立不動の体勢を取った。
「総司令さまの、おなーりー」
小姓がいるとでもいうのだろうか、妙に甲高い声が響き渡ったかと思うや、鮮やかなレッドカーペットが鎧兵の間の床を跳ねるようにして転がり敷かれる。
その上を殊更ゆっくりと、しゃなりしゃなりと歩んできたのは、花魁もかくやと思われる、ド派手な出で立ちの女性であった。
高く盛り上げられた金色の髪には、赤や黒も鮮やかな櫛が、まるで孔雀の羽のごとく展開している。両肩を出した大胆なカットの真っ白なドレスには、目の覚める紺色の花やリボンが絡みついていた。右手には黄金の光放つ扇子に、左手にはよく持っていられるなと思わせるくらいの長い煙管が軽々と支えられている。
ベンロァカウボ=メサダ・ジーン。ソディバラ自治区総司令の彼女は、御年55歳という年齢を感じさせない身のこなしで、目にしたアクスウェルの面々が真顔になってしまうほどのギンギラのオーラを発しながら、その緋色の花道を闊歩していくのであった。




