#057:相異の、似紫
#057:相異の、似紫
本部7F、司令室。
「殉職された方の……その、訃報については、ご家族に連絡は行ったのかしら」
静謐な空間に、凛とした女性の声が響く。
「彼は……彼もまた、身よりの無い独り身でして……共同墓地に、墓石の手配は……行い……ました」
大振りなデスクの正面にある応接セットで向き合っているのは、総司令カヴィラ=ワストー・クォーラと、アクスウェルきっての人畜無害人材、ルフトーヴェル・カーンⅤ士。深い緑色をした髪は、普段のぴっちりした横分けから、所々跳ねたり乱れたりしている。
先の戦いにおける殉職者は一名。ルフトの口調が歯切れ悪いのは、その者が「闇黒」に呑み込まれるようにして食われており、遺体が寸分も残されていなかったことに因る。
「……いやな時代ね」
ふうっ、と吐く息と共に総司令は眉間に一瞬、皺を寄せる。
ひとつ気にかかる事が、と前置きしてから、ルフトは話題を転じる。
「ソディバラも10日ほど前に『イド』が噴出したとの報告があります。我々のサポートに割ける戦力が果たしてあるのでしょうか……疑問です」
連日のてんやわんやの対応に、聡明な頭脳もそろそろ悲鳴を上げそうな状況なのであった。眼鏡の下の目も少し血走ってきている。
「……ベンロァなら、自分のところが多少手薄になろうが、こちらに自分の『軍隊』を誇示しに来るでしょうね……やっぱり安易に助けを頼んだのは早計だったかしら」
総司令はそう小首を傾げると共に、手に持ったカップを口へと運ぶ。
「正直、私は苦手です。まあ得意とされる方はいないとは思いますが」
珍しく嫌悪感のような感情を垣間見せるルフト。それを見やり、やっぱり苦労させちゃってるわよね、とカヴィラはそっとカップの中に息をつく。
「しかしお任せを。諸々の応対については私が」
ルフトは少し緊張した面持ちだ。机の上のカップに指を掛けたまま、何事かを思案しているかのように視線をさまよわせている。
「……」
あの傲岸不遜のソディバラ総司令を前に、そつなく振る舞えるのはこのルフト君しかいないんだけどね、とカヴィラは内心そう思う。
他の面子は……と、自らの部下たちの顔を次々と思い浮かべるものの、硬軟強弱善悪緩急取り揃えているものの、基本、我が強いか自由奔放か負けず劣らずの傲岸不遜さを持っているかで、とてもじゃないが悶着が起こらないはずのない面々なのである。カヴィラは軽く眩暈を覚え、眉間を指で揉みほぐす。しかし、
「やるだけの事を、やるまでですが」
部下がこうして肚をくくっているのだから、私も割り切って事に当たらなくちゃあ、と目の前の真摯な目つきを力強く見返し、ぐいと頷いて見せる。




