#055:蒼穹の、オペラモーヴ
#055:蒼穹の、オペラモーヴ
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「『ソディバラ』……が出張ってくる……の? 今の状況からすると妥当とは思うけど」
医務棟2F。口調はゆっくりだが、話している事は明確に聞こえる。
「骨鱗」との死闘で激しく疲弊したエディロアだったが、一夜明けた今はベッドの上に半身を起こせるほどに回復しているようだった。傍らには食事をした後と思われる食器やらトレイも置かれている。
布の間仕切りが施されただけの簡素な四床部屋には、彼女ひとりがいるのみ。窓際のベッドには開け放たれた窓から涼し気な風が吹き込んで来ている。
穏やかな昼下がりといった感じだが、遠くからは金属同士がぶつかり合う音が規則正しく、くぐもって聞こえてくる。
大破したエディロアの愛機「ヴェロシティ」の修理・整備は急ピッチで進められているものの、やはり外殻を一から丸々作り直すとなると相当な作業であるわけで、いつもは嬉々として作業に当たる気のいい整備士の面々も、その地道で精密さを求められる困難具合に音を上げつつあるのが現状であった。
緩やかな風を顔に受け目を細めていたエディロアが、ふと向き直る。
艶やかな黒髪はいつものひっつめではなく、ゆるやかにウェーブがかったまま自然に肩の下あたりまで降ろされていた。
そして、まだ本復までには至っていないのか、それともなにがしかの薬のせいなのか、普段の鋭い目つきは見られず、ぼんやりと熱に浮かされたかのような視線と表情で、ベッド脇に座るミザイヤを見つめている。
丸椅子に腰かけたミザイヤは、エディロアから見ると一段低い位置で、何故か少し居心地悪そうに落ち着かない。
薄いガウンで強調されたその豊かな胸元に、いやが応にも目が行ってしまうのを避け、必死で目線を上へ上へと上げる作業に集中を強いられているからなのであった。
その意図を解したか、エディロアは肩にかかっていた髪を背中の方へ払い流すと、殊更に両肩を後方へと広げてわざとらしく伸びをしてみせたりしているのだが。
「……あのド派手なばあさんも来るんだとよ。支援にかこつけて、またどうせ自分の『軍隊』をお披露目しに来たいだけなんだろうが。やってらんねぇ」
後頭部に両手を回し、天井を見上げる体で、エディロアの、そのしなやかだが出るとこ出てます的な肢体から顔を逸らすミザイヤ。当の自分の制服の前はだらしなくくつろげられ、下に身に着けている黒のシャツも裾は出っ放しであるが……
明日到着予定の「ソディバラ地区自警」の面子とは、上司のエドバ以上に反りの合わないミザイヤは、何とか顔を合わさずに済む方策はないかと、色々な部署を訪ね回っていたりしているのだが、成果はないようである。
思いついたかのように、このエディロアの病室に見舞いに来たものの、どうも昨日から、これまで垣間見せていた穏やかで自然な表情全開で接せられおり、困惑気味のミザイヤなのであった。
ふと目線をベッドの上に戻すと、そこには熱でもあるのか、妙に潤んだ黒い瞳が自分を見つめていたりで、居心地がいいのだか悪いのだか、うまく判別できないでいる。
勝手にやってくれ、とこの場に居合わせた者なら誰しもがそう思うところだが、話している内容が内容だけに、遥か高みからの視点も、それを逸らすことを出来かねているのであった。




