#054:独断の、シルバーグレイ
#054:独断の、シルバーグレイ
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「……その、ジカルが拾ったっていう『少年』? は、無事ってことか。そのことはまあ良かったにしろ、いや、良かったのかどうかは何て言うかその、いったい何者なんだ? 怪しい感じがするぜ」
アクスウェル地区自警、本部3F会議室。
前日の想定外の「異形の者」、「闇黒」と自らは名乗っていた正体不明の生命体の出現に対し、速やかに対策を取るべきということで、主だった面々が呼び寄せられていたのであった。
壁の一面には、何やらここ周辺の地図らしきものが投影されており、それを見やすくするためか、室内はカーテンが引かれた薄暗闇。長机が「ロ」の字型に組まれた20名くらい収容できる静謐な空間に、10人くらいの人影が見て取れた。
いきなり本題を外れたミザイヤのその質問だか疑問だかに、律儀に速やかに応えたのはやはり、真面目が制服を着て歩いていると評される幹部候補、深緑の髪と目のルフトーヴェル・カーンである。どのみちその「案件」も処理しなければ話が進まないと見越しての事なのであろうが。
「ジカルさん曰く、『アソカゥ』の言葉を解する、アルゼくんと同じくらいの年かさの、正に少年といった感じの『少年』だそうです。素性はまだ確認中ですが」
答えたものの、普段のルフトらしからぬ、あやふやな内容に、おや、とこの組織の最高権力者、「総司令」カヴィラ=ワストー・クォーラはちらりとその「投影機」の光が眼鏡に反射している横顔を見やる。表情はいつも通りの沈着さを携えているものの、
(寝てないみたいね。おつかれみたい。まあ、あの騒動の後では無理はないけど、これ以上の無理はさせたくない)
そう思う当のカヴィラも不眠不休で本部に詰めている。疲労が表に出ていてもおかしくはないのだが、流石は歴戦の猛者であり、きちんと整えられた銀髪や服装には一切の乱れは見て取れない。
「……『少年』はともかくとして、アルゼⅩⅡ士の意識がまだ戻っていないことが懸念。加えて鋼鉄兵機のほとんどは損傷して即時稼働が厳しい状態です。『ウォーカー』三機と、あとは『ミトラパリス』が一機。『マ』への対応は非常に困難と言わざるを得ない」
腕組みをしながらカァージがそう重々しく告げる。鋼鉄兵機「ミトラパリス」は今回出動の機会は与えられずに待機していたため無傷ではあるものの、元々が救助した人間を収容し、輸送するための機体であり、一応、二門の大型砲は取り付けられてはいるものの、真っ向から怪物たちと戦うには向いていない。
以上を加味すると、いまこの自警機関の戦闘能力は著しく失われている状態であり、ここに大量の「マ」が攻め込んで来ようものならば、惨事は免れないとこの場にいる面々はそう危惧している。
ならば、この決断もしょうがない、とばかりに、意を決して総司令は口を開く。
「……私の判断で、昨日のうちに近隣の『ソディバラ』に支援要請を行いました。明日到着するとのことです。みなさん、ご対応よろしく」
あくまで落ち着き払ったカヴィラの言葉に、ミザイヤはじめ、その場の一同がやにわに気色ばむ。
「し、司令……何でまた」
ミザイヤの言葉を遮るかのように、
「……私とは旧知の仲ですの。この窮地を逆手にいろいろ学んでくださいな」
やわらかだが、有無を言わせぬその鋭さを持った言葉に、ミザイヤは浮かしかけた腰を再び椅子に降ろすしかない。