#049:緊迫の、ガンメタル
#049:緊迫の、ガンメタル
カァージは不安定な足場の中、自らが身に着けていたプロテクターの上半身の部分を緩めると、完全に意識を失っているアルゼの体を自分の背中とプロテクターの隙間に挟み込むようにして背負う。再びプロテクターを調節すると、二人の体は密着しつつ固定されたようだ。
猟銃もロックして肩にベルトで引っかけると、両手が自由になったカァージは、その長い手脚をすっすと動かし、急角度の斜面になっているジェネシスのコクピットの床面をいともたやすく登り始める。
インカム越しに呼吸があることを確認したものの、アルゼが覚醒する気配は無い。ひとまずは下がる、とそう決め、カァージはコクピットから、風の強まってきた外へと注意深く体を出す。
「……」
すでに機体の回収に来たと思われる部隊が、足元の方で展開していた。ジェネシスに何人かが取り付き、何かを計測するらしき機械を取り付けていたりする。
カァージは人ひとり背負っているとは思えない体さばきで、ジェネシスの広大な背中を両手両足を巧みに繰り出しながら、素早く降りていく。
(『奴』は……?)
目下最大の懸念事項だが、周りの兵士たちの様子を伺うに、あの白い鱗を纏った怪物は、既にこの場にはいないと見て良さそうだった。大振りで平らな岩の上に降り立ち、辺りも見渡すものの、動く物の気配は無い。
それでも何かしらの痕跡は無いものかと、カァージはアルゼを背負ったまま、先ほど「骨鱗」が吹っ飛ばされたと思われる場所まで小走りで向かってみる。と、
「!!」
不意を突かれ、思わず体が硬直してしまうカァージ。視界を遮るほどの巨岩の陰に、隠れるようにしながら地面を力無く這いずっていたのは、先ほどまで対峙していた「骨鱗」の変貌した姿であった。
白く艶のあった全身を覆う「鱗」状の物は、今や植物が枯れたかのように萎びていて、灰色の斑点のようなものが全身に浮いており、岩場を敷き詰めるようにしてある砂利と同化しているかのようだった。
(保護色……? なるほど、これでは遠目では察知出来ん)
その動作も見ている方が焦れるほどの緩慢さであり、目を凝らしていないと動いているのかも定かではないくらいである。しかし、
(逃げている……こいつは、この場から、去ろうとしている)
「骨鱗」の、胸の辺りを変化させた「触手」状のものは、そのほとんどが溶けて縮み動かなくなっているようで、地面に擦り付けられるまま、砂や土が付着してぼろぼろの外見を呈するまでになっている。
胴体側の損傷もかなりのもので、ほぼ背中側の皮一枚で、上半身と下半身がくっついているような、そんな状態であった。胸から下は動かすことがうまく出来ないのか、両腕だけを使って匍匐前進のような様態で、カァージの推察通り、山の方角、すなわち戦場となった自治区から遠ざかろうとしている。
(のが……すか)
カァージとその灰色の物体との距離はおよそ数歩ほど。極力音を立てないように左手で猟銃を掴み、肩からベルトを外す。ゆるり、ゆるりと銃床を左肩下の辺りに当てると、右手をゆっくりと引き金の方へと近づけていく。