#047:泥沼の、ダブグレイ
#047:泥沼の、ダブグレイ
アルゼの叫びに呼応するかのように、その搭乗機から放たれた、目が眩むほどのまばゆい「黄金の光」。
神々しくも得体の知れないその真夏の陽光のようなぎらつく熱を持った光が、ジェネシスの右拳の先に取り付いていた「骨鱗」を引きはがした。
「……!!」
相変わらず、その右目の部分だけが開いた白い仮面のような顔は表情を現さなかったものの、自らの体が衝撃を受けて吹っ飛ばされたという事実を受け、状況を把握しようとあちこちに視線をやっている姿が、今までになくその焦燥を感じさせるのであった。
(効いた……は効いたが、あの『光力』は一体……? あんな武装が搭載されているなど、私は聞いていないが)
指令車内のカァージが、手元に引き寄せたのは、鋼鉄兵機「ジェネシス」のマニュアルとも言えるべき資料である。
大判のバインダーに、一見雑多に大小さまざまな規格の仕様書等が挟み込まれているものの、彼女としては「整然と」していると見ている重要書類であるが、そのどこをめくってみても、今しがたの「黄金の光」の記述はされていなかった。
怪訝な顔で逡巡を続けるカァージであったが、
(いやともかく……好機。今の『光力放射』を続ければ、奴を消滅まで追い込むことができそうだ)
そのバインダーを操縦席の後ろに投げ置くと、前方の機体-ジェネシスの操縦席へと、意気込んで指令を飛ばす。
「アルゼⅩⅡ士、今一度、先刻の『放射』を行い、目標の完全殲滅を」
しかし、
<……>
通信先からは無音の返答。と思うや、眼前の巨大な人型兵機も、まるで気を失ったかのように、いきなり膝から崩れ落ちると、受け身を取ろうとする気配も無く、頭から地面へとうつぶせに倒れていってしまう。響く金属音。
「アルゼっ!!」
カァージの呼びかけにも応じない。右腕が強力な酸で溶かされたかのようになっているジェネシスは、地面に這いつくばるようにして、それきり搭乗者と共に完全に沈黙してしまった。
一方の「骨鱗」も、その胴体から展開した蛸脚状の触手に、強烈な光熱を放射されたかのようで、こちらもどろどろの断面を覗かせている。
どこか中枢にも変調をきたしたのだろうか、その異形は仰向けに地面に転がったままの姿勢で、こちらも動きを見せていない。
<カァージさんっ、アルゼの意識が無い!!>
本部からのルフトの通達より先に、カァージは既に指令車から台車を切り離しており、倒れているジェネシス向けて可能な限りの接近を開始していた。
せめて操縦者は回収する、と、カァージは後ろ手で猟銃をひっつかみ、鼻先くらいにジェネシスが迫る所まで指令車を肉薄させると、運転席のドアを蹴り開けて外に飛び出していく。