#046:神格の、ゴールド
#046:神格の、ゴールド
(やばいやばい! このままじゃあ食べられちゃうよ!! 何か……何か無いの!?)
コクピット内で、アルゼはあわあわとしながらも、呼吸を整えることから自分を落ち着かせていき、頭の奥底で必死で策を手探っていた。
(喰らっている今が……逆にチャンスとならないかな? でも外皮は相変わらず見た目からして硬そう……どうすればその内部にまでたどり付けるのか、だけど……)
そこまで考え、アルゼは「内部」? と自問し、「粘膜」と続けて呟く。
(喰ってる『口』……そこに『光力』を流せれば……!!)
内側から破壊することが出来るかも知れない、そう考えるや否や、
「……カァージさんっ!!」
アルゼは思い切り、通信機の向こうにいるはずの上官に叫ぶ。カァージの乗る指令車は、アルゼと「骨鱗」の戦闘が始まった岩場から、少し距離を取って全体を把握するよう努めていたが、アルゼの要求を速やかに察知すると、トレーラーのような台車を引っ張って、ジェネシスとの距離を詰めていく。
「台車」にはジェネシス本体を搭載することが出来(土下座状態で)、なおかつ、「武器」も積むことが出来る構造になっている。カァージは今、アルゼの乗るジェネシスへ、「ライフル」を渡そうとしているのであった。
<立てるぞっ!!>
カァージが鋭くそう言い放ったと同時に、アルゼはジェネシスを一歩後ろに跳躍させる。台車からは直角に起き上がるようにして、ライフルの銃身が天を向けて突き立てられていた。その方向を見向きもせず、アルゼはまるでそこにあるのが当然と言わんばかりにすんなりとその細長い把手を掴むと、左手一本で肩に当てる。そして、
「くらえええええっ!!」
雄叫び一発、アルゼは「骨鱗」が取り付いている機体の右拳を引き寄せると、その少し隙間が見える「口」目掛けて、左手に持った銃の先をぐりぐりと押し込んでいく。
(……中から、吹っ飛ばす!!)
アルゼが力を込めて押し込むライフルの引き金に、ジェネシスの指を当てがった、その時だった。
「!!」
またもけたたましい金属音が響くや、「骨鱗」の口に突っ込まれたライフルが激しい力を受けて振動する。
(……これもっ!?)
もはや体全体が「口」のようなフォルムになっている「骨鱗」は、臼ですりつぶすかのような動きを見せると、規則正しい速度と動きで、銃身をどんどん呑み込んでいった。
ジェネシスの右腕の方の咀嚼も同時に進んでいるようだ。既に手首までは完全にその異形の腹の中に納まってしまったかのように思われる。
食べられてしまったものの行方は全くもって計り知れないものの、「骨鱗」の口に取り込まれていったものは、この次元からは消え去っていっているかのように見えた。
(だ、だめ……もう手が無い)
コクピット内で必死に打開策を考え、最善とも思える動きでそれをこなしてきたアルゼだったが、事態の好転のしなさ加減に、ついに硬直してしまう。
<アルゼっ!!>
指令車の中のカァージも、既にどうすることも出来なくなっている。せめて脱出を、と、指令車を限界までジェネシスへと近づけていくが、
(食べられちゃう……)
ライフルを完全に呑み込んでからは、さらに取り込みの速度が上がっているようだ。既に肘の上まで、軟体質の体は進んでいた。
その先の胸部にはコクピットがある。そこへと到達してしまうまで、もうあまり猶予は無さそうに見えた。
そして「骨鱗」はジェネシスを喰らうごとに、その異形の体に力をも取り込んでいるかのようで、その動きは確実に活発化していっている。一心不乱に貪るその姿を間近に見やり、アルゼの体は恐ろしさとおぞましさとで、勝手に震え始めてしまう。
ついに肩の所まで、「骨鱗」の不気味に蠢く体が達した、その時だった。
「い、いやああああああああああああああっ!!」
アルゼの恐怖の叫び声がこだまする。その瞬間だった。
破裂するような光の拡散が起こったかと思われた。瞬間、手を翳してその凶暴な光線から目を守ったカァージは、その光源と思われるジェネシスの機体が、神々しくも眩い、金色の光に包まれていることを視認したのであった。
「!!」
その光の持つ「圧力」のようなものに、これまで手ごわく絡みついていた「骨鱗」の体は、あっさりと跳ね飛ばされるように、吹っ飛ばされていく。
(これは……!?)
指令車の中で目を細めながら、カァージは眼前で起こったことの理解に努めようと思考を巡らすが、全く思考は追いついてこない。