#042:健啖の、モーベット
#042:健啖の、モーベット
二つの影の間に、緊迫感という名のちりちりとした熱を持った空気が徐々に満たされていくかのような、そんな雰囲気が沸き上がって来ている。
期せずして強まってきた風が、アルゼの乗る巨大な人型兵機、ジェネシスの巨大な鋼鉄の体躯に、巻き付くようにして、ごう、と音を鳴らす。
「……」
右肩に背負っていた「鉄棒」のような武器を、手首のスナップを利かせて、ふおんと正面に突きつける。その切っ先にはちょうど、立ち尽くしたままの姿勢の「骨鱗」の姿をきっちりと捉えていた。
(不気味……隙だらけに見えて、打ち込めそうな角度がわかんない……)
アルゼは目標を凝視したまま、そう躊躇してしまう。必殺の間合いには先ほどから入っていたものの、いざその初撃の取っ掛かりは、と、力無く立っているその姿のどこを探しても、これはと思えるポイントが見当たらないのであった。
(さっき当たったのは、本当の本当に隙を突けたからなのかも……う~、でもそんなこと言ってみても始まらないって! 様子見でもいい。まずは動かないと。よーく狙って、アルゼ……)
左掌は前方に伸ばしたまま、アルゼはジェネシスの右腕を最大限まで後方へ引き絞る。「突き」をかまそうとしているのか? その臨戦態勢に眼前の相手が入ったのを見ても、対する「骨鱗」の方に動きも変化も見られない。
(もしかしてナメられてる!? それなら……それならこの『ジェネシス』が伊達じゃないってとこ、見せてやるんだから!)
操縦桿を握ると、好戦的な性格になるのだろうか……しかし、血気逸る気合いを見せながらも、その構えには隙は無く、落ち着きを感じさせる佇まいである。
ふんっ、と鼻から大きく息を抜いた刹那、
「いいいいいいいいいいろあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
独特な雄叫びを上げつつ、アルゼが駆るジェネシスは膝を少し曲げた状態から、一気に全身のバネを使うかのように前方へと跳ぶ一歩を踏み込む。
「せっどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
そしてそのまま、突進の勢いも加算して、振りかぶった右腕を突き出す。その手に握られた「鉄棒」は、180度の捻り回転も与えられつつ、風を切る速度で「骨鱗」に突き込まれた。
かに見えた。
「!!」
苦も無くそれを紙一重で交わしていた「骨鱗」は、同時に、再びその胴体部に開いた巨大な口で、「鉄棒」を咥え込んでいた。
バヅン、のような金属が破断する音が響く。慌てて「鉄棒」を引っ込めるアルゼだったが既に遅く、10mはあっただろうそれは、3分の2ほどが折り取られた無残な残骸と化していた。
(まだまだ食欲旺盛みたいね……お行儀悪いんだからっ)
「柄」と「身」が同じくらいの長さになってしまったその「鉄棒」を見やり、アルゼは苦々しくそう思う。