#041:相思の、キューピッドピンク
#041:相思の、キューピッドピンク
「……」
呆気にとられながらも、真顔でその「救世主」の姿を二度見するエディロア。見上げるその威容には、躍動するオーラのようなものを纏っているかのようであった。
丸太のように見えた棒状の鉄棒は、どうやらその鋼鉄兵機ジェネシスの近接用得物のようだったが、全身甲冑を纏ったようなその機体は、右手に握ったそれを右肩に担ぎ上げるように構え、そして左手は五指をこれでもかくらいに開きつつ、真っすぐに突き出している。
腰を落としたその外連味たっぷりな「推参」ポーズらしき姿勢のまま、少し余韻のような空気が流れた。
(あれが『新型』……なるほど『人型』ね。というか、本当にヒトみたいな動きだけど……)
あまりの驚愕に、却って無表情で見つめることしか出来ないエディロアの視界を遮るように、突如、荒い息遣いの人影が現れる。
「!!」
「……無事かよ。遅くなっちまった」
激闘のさなかも、早く助けに来てとそう願っていた、会いたかった顔にいきなり間近に迫られ、さしものエディロアも赤面しつつ泡食って何も言えなくなってしまった。
「他の地区の『マ』の殲滅は完了した。残るはあの、得体の知れねえのだけだ」
肩から吊っていた小銃を背中に回すと、ミザイヤは座席のロックを全解除させ、支えを失ってそこから離れたエディロアの体を優しく両腕で受け止める。
「……」
状況報告とか要らないから、と嘆息するエディロアだったが、横抱きに抱え直される中、最後の力を振り絞って、その逞しい首に両腕を回して思い切り抱きつく。
「……遅いよ、みーくん」
「……その件については誠心誠意謝罪しますので、その呼び名だけはご勘弁を、Ⅰ騎」
真顔になるミザイヤの腕の中で、エディロアはそれきり気を失ってしまったようだ。無理ねえか、どんだけ光力を使ったんだよ、と、その穏やかに見える、瞼が閉じられた青白い顔にそう問いかける。
<……えーとⅡ騎? 来た道を一本、右手に折れてください。救護車をそこまで近づけてますんで>
と、いきなりヘルメットのインカムに本部……ルフトからの指示が入る。その少し困惑げに発せられた言葉のニュアンスに、ミザイヤは先ほどのやり取りが本部まで漏洩していたことを悟る。
「……!! ……!!」
言葉にならない雄叫びのようなやるせない悲痛な声を響かせながらも、ミザイヤは「突如進化種」もかくやと思われるほどの凄まじい脚力で、戦線を速やかに離脱していくのであった。
一方、
「……かかって……こぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!」
アルゼの乗る機体、人型ジェネシスから、耳をつんざくばかりの拡声音が響き渡る。
先ほど吹っ飛ばされた「骨鱗」は、北の方角、山裾が迫る岩場付近で、吹っ飛ばされて地面に転がっていた体勢から、再び直立の姿勢を取っていた。
そのボディは衝撃を受けて少しひしゃげて見えるが、表情は相変わらず不変のため、ダメージのほどは全く伺えない。
(今までのと違う! ……落ち着いてアルゼ。迷ったら基本。迷ったら基本……)
体長差、およそ十倍はありそうな「骨鱗」とジェネシスが対峙する。そのコクピット内のアルゼは、自分に暗示をかけるようにして、昂る気持ちを落ち着かせている。