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#004:困惑の、アンバー


 事故(?)のショックから完全には立ち直れていないんだろう、体がふわふわ浮いているような感覚だ。アルコールでも入れたらこんな風になるのかな? 経験は無いけど。真っすぐ歩こうとはしているんだけど、脚はあっちこっちに突き出されるわ、上半身はぐらぐらと安定しないわで、まるでコントか何かの千鳥足の酔っぱらいを地で言っている感じ……人の目はもちろん無いんだけど、このオーバーアクションに我ながら少し恥ずかしくなってしまう。しかして、「人の目」云々言っておいてだけど、僕を遠くから睥睨する「目」はあったわけで。


「……」


 小川を挟んだ青い木々の向こうに、その「目」は琥珀色に鈍く光っていた。その姿、その全容は影にまみれて全く見えない。ただ徐々に聞こえてきた低い唸り声に、僕はその「目」が敵意しか持っていないことを確信する。この場から速やかに離れなくては、と思うは思うものの、相変わらず夢の中のように体に力がいかずに、抜き足差し足のような、やきもきするようなスピードでしか、前に進めない。


「……ああー、聞いてるぜぇ、今日の夕方ごろ搬入されるそーだ。ジナ=テックの最新の奴だろ? 1200万したってよ」


 別棟第2ハンガー。自らの「機体」を整備している、明るい茶系の髪をぼさりと伸ばした、屈強な体付きの男がそう言うが、大して興味なさそうにも思える口調だ。


「俺は聞いてねーぞ。それにそんだけの予算あったら、『ストライド』5、6機は買えるじゃねーか。何考えてんだ、司令は」


 鉄製の足場についている柵に寄っかかりながら、ミザイヤがため息をついた。


「ま、あの人もたまに変わったことするからなぁ。でもあの『新型』、形は別として、かなりの高性能らしいんだわ。まだ試作機段階とは言ってたが、近接戦闘から遠距離射撃まで、あらゆる距離で使えるオールラウンドな機体らしいぜ?」


 と、茶髪の男。機械油にまみれた顔は浅黒く、彫りの深い造作は、一見、精悍そうに見えなくもないが、少し間が抜けているようにも感じる。


 オセル・レノマン。鋼鉄兵器「ステイブル」(これも一応『人型』。ただしかなりのずんぐりむっくりタイプのため、司令らはそうとは見なしていない)のパイロットで、階級は「Ⅶ士」。


 主にこの組織で使われる階級は、「総司令」を除いて上から「督」「騎」「士」となっており、「督」はⅠ~Ⅲ、「騎」はⅠ~Ⅵ、「士」はⅠ~ⅩⅡに分かれ、番号が若いほど上ということになっている。


 ミザイヤは四年前の配属から異例ともいえる出世を果たし、現在「Ⅱ騎」まで登りつめた。ここではかなりの上級位なのだが、このオセルは同期なので、こうした口調で物を言い合う。


「また『試作機』か。あたらしもの好きだからな、司令も」


「ま、それがいい方向に転ぶんだから、やっぱすげぇよなあ、あの人は。その事はよぉ、おめーがいちばん身にしみて判ってんだろーに」


 オセルがミザイヤの方を見て、意味ありげに、にやりとして見せた。


「『ストライド』の事を言いてーのか。確かにあの人には、よくわからねー先見の明がある。くすぶって腐ってた俺をここまで引き上げてくれたのも、司令だ。その事は感謝してもしきれねーし、『ストライド』の性能も申し分ない。でも今回はどうも納得できねーんだよな」


「おめーが納得できるようなら、司令の目も落ちたってことになんだろーぜ。ま、しばらくは様子を見てみるこったな」


「……だな。あと気になんのは……」


「……誰が乗るかってことか」


 ミザイヤの言葉を、無精髭の浮いた顎をごしごしこすりながら、オセルがそう続ける。

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