#039:峻烈の、ヴァーミリオン
#039:峻烈の、ヴァーミリオン
「……」
真横に開いた「胸の口」をずむずむと形容しがたい動きで開け閉めし、「骨鱗」は受け止めた鋼鉄の「脚」を、今度は中央辺りから真っ二つに折りながら、自らの体内へと取り込み始める。
先ほど「人間たちを捕食する」という意味合いの言葉を発していたものの、実際は口に入れたもの何でも咀嚼嚥下してしまう、とんだ悪食のようであった。棒立ちのまま、「骨鱗」は白い球体、ヴェロシティを何とは無しに眺めているかのように見える。言葉を流暢に発していた時とは違って、今は戦時と認識しているのか、沈黙のままだ。あるいは、口が忙しいためだからかも知れないが。
期せずして、辺りには静寂が舞い降りてくる。まるでこれから始まる「最後」の攻防の、嵐の前の静けさといった感じだった。
その静謐ながらも張りつめた空気の中、エディロアもまた、静かに長い呼吸を繰り返していた。
「最後の技」「思考の埒外」、と彼女自身が思ったそれを実行に移すには、それなりの覚悟が必要なようだった。
(いくわ……よ)
ひときわ大きく息を吸い込んだ瞬間、エディロアは自らの機体を傾け、左脚の一本だけを地面につけると、他の伸ばした脚先からエネルギーを噴出させることによって、強烈な横回転をその球体の機体に与えていく。その場でコマのように回り続けるヴェロシティ。そして、
回転が安定し、速度も頂点に達したと思われた、その瞬間だった。
「!!」
激しい金属音と共に、その白い回転体から、「脚」が射出されてくる。矢継ぎ早に何本も。
始めは横一線に並んでいるかのように見えたその「脚」たちだが、速度も角度もバラバラだったため、隊列としてはどんどん歪んできている。しかしその無秩序さが却って予測がつかない動きとなったか、上方へ跳躍して交わしたかに思えた「骨鱗」の左の爪先あたりを、「脚」の一本が、ほんの少し掠めた。
ぐらり、と空中でバランスを崩し、上体を少し反らせるような姿勢となった「骨鱗」。その表情の無い目に映ったのは、遥か上空から降り落ちてくる、幾本もの「脚」の煌く軌道だった。
「!!」
右肩に突き刺さったのを皮切りに、「骨鱗」の体に次々と鋼鉄の「脚」が撃ち込まれていく。さらに追撃のように突き刺さって来る鋭い切っ先を食らい、「骨鱗」の体はその勢いで、地面に正に釘付けのように貼り付けられる。思わず、グウウ、と呻き声を発する「骨鱗」。
(全身を回転させてしまえば、撃ち出すタイミングや所作は見切れなくなる……狙いはつけられないし、私も滅茶苦茶に『脚』たちのロックを解除していっただけだけど、そのランダムさこそが予測不能の『見えない槍』と化す)
もはや軸のように球体を支える脚一本になってしまった鋼鉄兵機ヴェロシティは、エネルギーも使い果たしたか、回転が収まると同時に、横倒しに力無く倒れてしまう。




