#038:相関の、クロムイエロー
#038:相関の、クロムイエロー
「……」
相変わらずの表情の無い目で、「骨鱗」は迫りくる白い球体を睥睨している。
その腹部に突き立てられた「槍」……鋼鉄兵機ヴェロシティが発射した切り札の「脚」を右手で掴むや否や、「骨鱗」は全く意に介さず、といった感じで、ぐいぐいとその「脚」を自分の体内へと押し込むようにして納めてしまった。背中側に突き出ていた先端部も、その動きに合わせ、呑み込まれるようにして姿を消す。
(喰った、っていうの……? それも)
「骨鱗」に肉薄した機体の操縦席で、エディロアが驚愕と呆れに近い表情でそう嘆息する。この時点でこの「脚」での攻撃は見切られ効果は期待できない、そう直感していた彼女だったが、一縷の望みを賭け、再度振りかぶった「脚」を、目標目掛け振り抜く。
「!!」
フオン、と風を切る音を置き去りに、鋼鉄の「脚」は放たれた矢のように高速に、直線的に「骨鱗」の一見無防備とも見える腹部へと撃ち込まれていった。
かに見えた。
「……」
ほんの少し、上体を……右肩を後ろに引いたように見えた。しかし次の瞬間、激しい金属音と共に、発射された「脚」が「骨鱗」の腹部の、今度は真横に一文字に開かれた巨大な「口」に受け止められ、咥え込まれたのが視認される。
最低限の動きで、仕掛けられた攻撃を難なく受け止めた「骨鱗」は、感情を表すことも無く、また突っ立ったままの姿勢を保ち続けているが、それがこの生命体の、底知れぬ能力の不気味さを体現しているかのようで、遠距離から様子を伺っていた隊員たちは絶句してしまう。
(やっぱり駄目ね。タイミングも、速度も見切られている)
一方のエディロアは、割とそこまでの予測、そして覚悟は出来ていたらしく、淡々と冷静に、その横を自機で通り抜けた瞬間、右脚部の一点を接地させ、ぐるりと180°回転を行い、「骨鱗」に向き直った。
打つ手なし、に思えた。が、
(であれば、まあ……あとは当たって砕けろ的なやつしかなさそうね)
そう肚をくくったエディロアは、くっ、とその大きく艶やかな目に力を込める。
<Ⅰ騎!? 救援を待って……>
ただならぬ空気をモニター越しに感じ取った本部のルフトが、そう制しようと呼びかけるものの、
「待ってられない。こっちから仕掛け続けることでしか、奴は止められない」
エディロアは、重々しい声でそれを遮る。
(……見せてやるわ。たった今、思いつきで構築した最後の技を。これなら読まれない。なんせ私にとってもどうなるか予測できない、思考の埒外の行動なんだから)
なぜかこぼれてしまう笑みを、殊更に唇に力を入れることで引き結ぶと、エディロアは機体の脚部を全て降ろし、地面に突き刺すように接地させていく。