#035:戦慄の、ローズマダー
#035:戦慄の、ローズマダー
「……エセペ、ホルメキッ、サテロォアーダ」
「骨鱗」の怪物は、再び「言葉」を放つ。さらには、地面に着けられた足を、引きはがすようにして片足ずつ動かしてみせる。
「……」
「骨鱗」と化してから初めての能動的な動きに、エディロアはじめ周囲を巡る自警の面々は警戒を高めるものの、単に引っ付いていた足裏を剥がしただけのようだった。再び素立ちの体勢に戻る。
<私は『闇黒』>
ディスプレイに表示された見知らぬ言葉に、コクピットでそれを凝視していたエディロアが思わず本部を呼び出す。
「『闇黒』とは何?……教えて」
<……こちらのデータには見当たりません。ただ見覚えがある。んですが……>
珍しく歯切れの悪いルフトの物言いに、エディロアは事態のただならなさを再び実感する。しかしルフトの回答が来る前に、「骨鱗」はまた何かを喋り始めていたようだ。ディスプレイにさらに文字が連なってくる。
<久方振りの地上。長い眠りは私から力を奪ったようだ>
まるで演説を行うかのように朗々と、「骨鱗」は音声を発し続けている。口らしき器官はそののっぺりとした白い顔の表面のどこにも見当たらず、声の出どころはまったく判らないが、低音の落ち着いた「声」は、意外な大きさでもって、こちらに響いてきている。
<……確か、2000年ほど前に絶滅した種みたいな感じで、その……こんなことを言うのは何ですけど、『神』の手によって滅ぼされた『悪魔』……とか、そんな書かれ方をしていたような……>
ルフトの言葉は困惑を帯びたままだったが、それを受けるエディロアも全く頭が追いついていかない。
「……神話とか、その類の、ってこと? でもこの目で実存を確認しているんだけど」
彼女の目は確かにその「骨鱗」の姿を捉えている。実体である質感を持って、確かにその怪物は実在しているのであった。
<……わから……ない、です>
ルフトからそんな言葉を引き出すなんて、これはかなりのコトになりつつあるわね、とエディロアは軽く計器類に目をやり、自機のエネルギーがまだ半分以上残っていることを再確認する。
その時だった。
<よって再び諸君らを……>
ディスプレイを流れてくる文字を追おうとした瞬間、
「!!」
激しい衝撃を感じ、エディロアの機体全体がたわんだかのような揺さぶられ方をする。何とか全ての「脚」を後方に突き立て転倒を免れたものの、何が起きたのかは認識できていない。
悲鳴が上がった。慌てて後方に転回するエディロア。そこには先ほどまで確かに前方にいた「骨鱗」が、自らの首の下辺りから臍の辺りまで縦に開いた「亀裂」のような隙間に、隊員のひとりの頭部を押し込んでいる光景があった。
(……速い)
驚愕を覚えるエディロアの眼前のディスプレイに、ようやく先ほどの怪物の言葉が終わりまで表示される。
<捕食する>