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#034:衆目の、レイヴン

#034:衆目の、レイヴン


 不気味に蠢いていた先ほどとはうって変わって、その「骨の鱗」のようなものを纏った人型の生物らしき物体は、ただそこに立ち尽くしているだけだった。


「……」

唯一動いているのは、顔面の右目の部分に開いた四角い穴から立ち上らせている、黒い煙のような光のみ。

事の成り行きを見守ろうと構えるエディロア以下小隊の面々が、固唾を飲んで待機する張りつめた静寂の中、


「……クゾ」

 いきなり、その「骨鱗」が音、というか声を発したかに聞こえた。これには驚愕を覚えるエディロアだったが、


(……たまたまそのように聞こえたのかも知れない。だけど……まだ『動く』ことは確かのようね)

 気を取り直して間合いを再度測り直す。跳躍からの刺突が届く範囲には、その「骨鱗」を完全に捉えてはいる。後は目標の速度、どれくらいの素早さで動けるのか、ということなのだが……


(……読めない)

 のであった。体の力を抜いているかのように、だらりとした姿勢で棒立ちしている様からは、とても先ほどまでいたベザロアディム種のように俊敏に活動できるようには見えない。

 しかしことこの「マ」と呼ばれる生命体全般に言えることとして、「常識には捉われない/むしろ想像の真逆をいくことが多い」という教訓めいた経験則が頭にあるので、エディロアはその外観から、逆に物凄い速度を見せるのでは? と危惧しているのであった。


 そんな逡巡と葛藤の中、


「……イラソ、マセゼロ、クワ」

{!!}

 その「骨鱗」から、今度はそうとはっきり認識できる「音声」が発せられたのだった。


「……本部!!」

<いま、翻訳中! ディスプレイに送ります!!>

 該当する言語があるのか、そして何を「喋った」のか、を確認するために本部を呼び出したエディロアだったが、打てば響くルフトの対応に、さすが、と小声で漏らすと、コクピットの目線の少し下に設置された小型のモニタに目をやる。そこには、


<久しぶりだな、諸君>

 想像を上回る、落ち着いた紳士のような物言いの言葉が表示されていた。


<……古代リアネッカ辺りのエフェベロ語と思われます。2000年くらい前の中央大陸の南部の言葉です。なぜその言語なんだ……? いや、そもそもなぜ我々人類の言語を?>

 最後の方は独り言のつぶやきみたいになってしまっていたが、頭脳明晰な彼でも困惑する事態が起こっているという事実だけを受け止め、再びエディロアはその「骨鱗」を注視する。


 右目の「黒い煙のような光」は徐々に収まってきており、その下からは、妙につややかな「眼球」が現われ出でていた。人間の眼球と同じような光彩をしているが、眼球自体の直径は10倍はありそうだ。ゆえに違和感を感じさせる。

さらにその眼球の周りは爬虫類然とした硬そうな皮膚に幾重にも囲まれているのだが、土壁に開いた穴の向こうから、巨人に覗き込まれているかのような不気味な圧迫感をエディロアは感じていた。


(……『久しぶり』とは……こいつは一体、この場に『来る』までにどんな経緯があったっていうのよ)

 恐怖心をかみ殺し、次なる出方を伺う。


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