#029:思案の、シアン
#029:思案の、シアン
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一方、北東地区。
(……ここには厄介な『進化種』は生まれ出なかったみたいで、それはそれでついてたけど、七匹もいるんじゃ、まあ、厄介は厄介か)
頭の周りと顔面を守るヘッドギアのようなごつい防具を被っているものの、その頭頂部からは、ひっつめて結びあげられた茶色の尻尾が覗いている。
(一匹ずつ潰すのが定跡とは思われるけど……何かしら、さっきからこいつらの動き、やけに統率が取れているかのように感じる)
細いフレームの眼鏡の奥で、切れ長の目がひそめられた。エディロア=ジーンは、鋼鉄兵機「ヴェロシティ」のコクピットの中で、じっと、相手方の出を伺っている。
北東地区は間近に山裾が迫った丘陵地帯である。民家……人口も最も少ない、畑や果樹園が広がるのどかな風景が広がっているものの、「北方」へと唯一抜けることの出来る「北トンネル」の入り口がある地区でもあり、交通の要所としての重要性は高い。
「……」
そして、「イド」が最も発生しやすい地域でもある。今回、開いた物も直径10m級の大型であり、これを封殺するのはかなり骨が折れると、エディロアに付き従っている小隊長は考えている。そして、そこより現れ出でしは、獰猛な七匹のトカゲ型、ベザロアディムであったわけで、エディロアならずとも「厄介」としか形容出来ない状況であった。
キシイキシィ、のような歯の隙間から空気を押し出す音が、エディロアの機体を取り囲む七匹の怪物たちから断続的に聞こえてきている。それはまるで、「獲物」をどのように仕留めるかの算段をしているかのような、そんな風にも思われる、不気味なものであった。
(せめてストライドでも居てくれたら、私は攪乱に徹したり、とかいろいろ作戦が取れるものの)
「ストライド」はあのミザイヤが駆る機体であるわけで、エディロアは小さくため息をつくものの、まあ要は、この「二人」は互いが互いにそうなのであった。
(向こうの出を待つのは良くないか。なら……)
エディロアが、左右に屹立する操縦桿を掴み、機体を作動させ始める。
「ヴェロシティ」は「速度」に特化した機体。そのフォルムは、蜘蛛のような、と表現するといちばんしっくり来るかも知れないが、真っ白な完全な球体があり、そこから「く」の字に折れた極細の脚部が五十本ほど張り出しているという、無機質な物体然とした、異様さを醸し出している外観なのであった。
「!!」
断続的な金属音を発したと思うや否や、ヴェロシティはその無数に思える「脚」を一斉に曲げ、直後、思わぬ身軽さで跳躍を始める。
怪物の囲いを一瞬で抜けると、その動きに対応しきれず、背中を見せたまま振り返るという間抜けな事をしてしまった個体を、その鋭利な脚先の半分くらいで瞬時に刺し貫く。 間髪入れず、「仲間」の惨状を見て動きを一瞬止めてしまった個体をも、次の瞬間、同じ運命をたどらせる。
瞬く間に二体沈めたエディロアだが、
(……何か、嫌な予感がする)
心中に去来する漠然とした不安に、再び眉をひそめる。




