#027:瞬息の、スノウホワイト
#027:瞬息の、スノウホワイト
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細く入り組んだ路地を、目まぐるしく「バイク」は疾駆している。周りの景色やら、タイヤが軋む音やらを、置き去りにしていくかのように。
「……ジンさン、残るハ一匹!! あナたのその射撃センスなら、タやすいこトね。あトは私が、うまク位置取りヲすれバいいだケなのでスが……ゴメんなさイね、最後のやツ、『突如進化』しタ個体みたイで、動きガ今までに見たコとないくらいナものなのデすね」
バイクを軽やかに操るジカルさんから、インカムを通してそんなすまなげな言葉が聞こえてくるものの、いやいや! 凄いのはあなたの方ですから! と僕は、結構な速度で走り回る怪物を一向に寄せ付けない、その操縦センスに驚くばかりなのであって。
「……」
確かに、三匹いた内の最後の一匹、いまこれから仕留めようと躍起になっている個体の敏捷性は、それまでの二匹とは明らかに異なっていた。「突如進化」……とジカルさんは言ったが、「突然変異」みたいなものなのだろうか。まあとにかく、厄介なことには変わりはない。僕は呼吸を落ち着けると、自分でもサマになってきたと思える、ライフルの構え姿勢へと、自然にシフトしていく。
後方から迫るギヨッギヨッみたいな叫び声の大きさから鑑みて、獲物が一撃で沈められるだろう、射程距離に入ったことを僕は確信する。
「……」
だけど、焦って無駄弾を消費することは避ける。装填されていた「六発」の内、僕は既に四発を使ってしまっていた。使い果たしても「補充可能」よー、とジカルさんは言っていたものの、その仕組みは全くもって謎なわけで、出来ればこの残り二発で決着をつけたいと思う僕。
「……ぐるリ回っテ、ケツを取っテやるネ!!」
ジカルさんが一声そう叫ぶや否や、バイクは右にこれでもかというくらい傾けられ、ええーここ入れるの? と思わず手にした「ライフル」を捧げ銃の状態にしてしまうくらいの細い、建物と建物の隙間レベルの空間へと、ドリフト気味に滑り込んでいく。
後方の怪物もそこを追って迫ってくるものの、そこに張られていた数本の、洗濯物を干すらしき頑丈な紐に、頭部を絡めとられ、しばし立ち往生してしまう。
こんな日当たりの悪い所に……と思わざるを得なかったけど、結果としていい働きをしてくれた、と僕は感謝する。
「ジンさん、開けタ所に出たラ、左手に」
ジカルさんの言葉を一瞬で理解した僕は、カラビナを自分のベルト穴から外す。そして細い隙間から走り出た瞬間、急ブレーキをかけて一瞬止められたバイクから飛び降りた。
「……こっチだァァァア!!」
右方向へ折れたジカルさんのバイクはそこで停車し、空ぶかしさせて怪物の注意を引き付けようとしてくれるようだ。怪物がそちらを向いた瞬間、そのうなじに撃ち込んでやる、と僕は決意を込めて銃を構える。