#026:臨場の、灰桜
#026:臨場の、灰桜
「は暑ぁぁぁぁぁぁっ……!!」
今や完全に沈黙し、芝生の上に建てられた金属のモニュメントのように直立する鋼鉄兵機ステイブルの胸の部分がハッチのように、がこん、と前方に向けて上から降り開かれてくる。
「ぼ、僕の体力は、げ、限界なんだな……」
疲労のあまり、混濁した頭で定まらない口調となってしまったオセルだが、何とかその狭いコクピットから上半身だけを覗かせると、清浄な空気を思うさま呑み込み始める。慌てて機体に登ってきた部下と思しき一人が、水筒のようなものを手渡した。
(……にしても、驚きだぜ。どっから撃ってやがんのよ)
その中身をぐいと煽りつつ、オセルの目は「光線」が放たれた左方向に注がれている。ここ森林公園から、西方向へは比較的広い通りが貫いており遥か先まで見通せるが、その遠方から、ようやく豆粒ほどの大型車両がけたたましい音を発しながらこちらに向かってくるのが見て取れた。
「やっぱ、あの新型かよ。おおーい、助かったぜぇぇぇぇぇっ!!」
ハッチの上にふらつく体で何とか立ち上がると、オセルはよせばいいのに、その車両の影に向かって両手を振り回し、大声を張り上げるのだった。
「あ立ちくらみ……」
言うまでも無く、オセルの限界の体に要らぬ負荷がかかった結果、すとんと意識が遠のいたでかい図体は、ぱたりと仰向けに崩れ落ち、再び運転席に頭から転げ込んでしまう。
「……無事、みたいですね。よかった……」
その様をスコープ越しに見ていたアルゼから、少し困惑したかのような声が、カァージの操る大型車両「キャリアー」の運転席に響いてくる。
超長距離からの狙撃をやってのけたのは、言うまでも無く、この新米パイロットのアルゼであり、その彼女が操縦する人型鋼鉄兵機「ジェネシス」であった。
超絶な射撃能力を見せ、またその射撃姿勢は早くも貫禄のある安定感を伴ったものであったものの、移動する際は、やはり安定感のある土下座姿勢であったのだが……
「……『イド』封鎖はここの隊に任せて、我々は『北東』に急行する。アルゼⅩⅡ士、残りはどのくらいいける?」
この東地区の「敵」も殲滅したものの、北東にはまだ七匹がとこの「怪物」が跋扈しているとの情報が先ほど入って来ている。北地区を見事な生身での狙撃で制圧したというミザイヤ隊もその「北東」に向かっているとのことだが、頭数は多ければ多いに越したことはない、とカァージは踏んでいる。
ジェネシスが今後の自警の要になる、とカァージは今日、認識・実感した。そのためにすべきことは何か、彼女の思考は既にそこまで進んでいる。
場数を踏ます、それを意識して、こうしてジェネシスとアルゼを連れまわしているのである。そしてそれにアルゼはよく応えてくれている、とカァージは内心、満足はしていた。
「……残り『50』ちょいってところです。『弾数』に換算したらあと『10発』はいけますし、いざとなれば私の『光力』をこのコに注ぎ込んであげられますし、今のところ問題ないと思います」
思ったよりしっかりとしたアルゼの返事に、やはり実戦が成長を促すのだな、と納得しつつ、カァージは車両を左折させ、一路、「北東地区」を目指す。