#024:自明の、ローアンバー
#024:自明の、ローアンバー
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残る三体の「化物」の動きが、ふいに緩やかなものとなる。何かを伺っているような、そんな素振りにも見える。
「……」
しゅー、しゅー、と、食いしばった歯と歯の隙間から、苦しげな呼吸を続けているのは、その化物らに三方を取り囲まれている鋼鉄の「ロボット」内の、極度に暑くなったコクピットで消耗を強いられているオセル。
「ひぃぃぃ、きつぃぃぃぃ」
情けない声を上げながらも、その目は、その前方に映し出されている外の様子を鋭く見つめている。可視可能な二匹を、その180°ほどの視野ぎりぎりに捉えつつ、残る一匹は背中にその気配を感じ取り、同時に対象の体温を感知する「レーダー」のような計器に視線を飛ばして、その動向に注意を払っている。
「……ぜー、こひゅー、ぜー」
多少誇張し過ぎのきらいはあるものの、そうまで呼吸を意識的に行わなければ、一気に意識が彼方まで持っていかれてしまうのだろう、胸焼けがしそうなほどの機械油の刺激臭と共に、オセルは食らいつくように酸素を体内へと呑み込み送っている。
「ステイブル」のコクピット内には、操縦桿と思われる、金属のレバー状の物が、球体に近い一畳くらいの空間に、底面と言わず側面と言わず突き出してきている。
その、何がどこを動かすのか皆目見当もつかない群生する金属の植物たちを、愛でるかのように、オセルは意外に繊細なタッチであれを右に少し傾け、これを左に少し回転させ、など、これまた法則性の見えない操縦(?)を続けているが、どこがどういった風につながるのかは分からずも、その鋼鉄兵機は、滑らかな動きで周りを睥睨するかのような構えのようなものを取って、怪物たちと対峙している。
先ほど「エネルギー切れ」の機体に、操縦者の「光力」と呼ばれるエネルギーを注ぎ込むことで稼働時間を延ばせる旨を述べたが、オセルは目いっぱいの呼吸で酸素を取り込み続け、体内にその「光力」を練り始めることが出来ていた。その体の奥底に沸いたエネルギーの塊を二つに分かって両の掌に集めるイメージを思い描く。集められた「光力」は、てっぺんにピンク色の光放つ宝石のようなものが埋め込まれた「操縦桿」を通して、操縦者から、その機体の動力機関へ、増幅されながら送り込まれるのであった。
その機構は未知。全ては失われた技術というより他は無く、この時代においては、新規に作製することはおろか、軽微な修理・修繕すらかなわないという現状がある。
人々は、「イド」が噴き出した地点の至近から何故かよく出土される、それら過去の遺物を、様々な道具や乗り物などに組み込み、利用しているに過ぎない。
幸いその動力源である「生命力」とでも言うべき、生命の持つエネルギーは、存在する人間や他の動物の数だけ採取源があるわけで、例えば献血のように、定期的・計画的に「生命力」を人々から採取あるいは搾取しておけば、膨大なエネルギーを貯蓄しておくことも可能である。
「……ふ、ふほぉぉぉ、ふがあぁぁ」
ただ、ここアクスウェルは大した資源も無く、その大部分が痩せた土地であり、それに比例するが如く、出土する「遺物」も何故か質の悪い物が大半なのであった。
さらに地区自警においては、資金繰りや金稼ぎが壊滅的に苦手な面々が回していることもあって、装備は貧弱、操縦手を選ぶ一癖も二癖もある兵機が勢ぞろい、さらにパイロットもそろいもそろって曲者揃いと、常に紙一重の運営で自転車操業を余儀なくされているのである。
オセルのような連日酒をかっ喰らって、ろくな物も食べていないような者が繰り出せる「光力」もたかが知れているのであった。ついに歯も抜けたようなふがふがした声と共に、その操る鋼鉄兵機ステイブルの動きも鈍くなってきてしまっている。