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#023:苦心の、バフ

#023:苦心の、バフ


 森林公園には、よく手入れの行き届いた広大な芝生が敷かれた開けた場所があり、今まさに、そのど真ん中でのっぴきならない駆け引きが繰り広げられているのであった。


「……」

 一方は、鋼鉄兵機に乗り、一撃必殺の射撃を繰り出そうと構えるオセル。


「……」

 そしてその一方は、そんなオセルが納まっている「外殻」をどうにかして剥ぎ取り、中のおいしそうな獲物を呑み込まんと、息を荒げている怪物が五匹。


 ぴりぴりと音が鳴りそうなほど緊迫した空気の中、痺れを切らして行動を起こしたのは、怪物、ベザロアディムの内の二匹だった。

 しなやかに躍動するその体躯を踊らせ、図ったかのように完全に180°異なる方向から、鋼鉄兵機ステイブルに襲い掛かっていく。


「……!! やろう~、トカゲの分際でぇ」

 オセルの駆るステイブルの両腕が素早く反応し、双方向からの鋭い爪での打撃を防ぐ。そして、


「おらぁっ!! なめてんじゃねえ!!」

 弾いたその手で、すかさず右の個体の喉笛あたりを屈強な「三本指」で、がぐりと掴むと、左の個体にはほぼゼロ距離からのエネルギー弾の連射を、その無防備になった腹部へと撃ち込む。


「!!」

 いくら強靭な皮膚を持つベザロアディムとは言え、至近距離からの連撃が効果ないはずもなく、連射を喰らった個体は、あえなく後ろへと吹っ飛ぶと、痙攣のような動きを一瞬したかと思うや、仰向けのまま動かなくなっていった。その体を覆う、黒い「霧」も消滅していく。中から現れたのは、貧相な体をした、ひょろ長いヤモリをそのまま巨大化させたような体躯の「正体」だった。


「うおおおおおおおっ!!」

 オセルは間髪入れず、右手に掴んだ個体を、その有り余る馬力で振り回してから、自らの鋼鉄製の脚部の膝に当たる部分、鋭利な角を持つそこへ、怪物の頭を振り下ろした。


 ケイイ、のような叫び声を上げ、その個体も沈黙する。

これで彼我の戦力比は一対三。先ほどよりも更なる優勢へと、事は運んだかに見える。が……


「ぜ、ぜふぅううううう、ぜふぅううう」

 コクピット内のオセルの息は苦し気に、荒い。出動間際に、この鋼鉄兵機に注入されたエネルギーは、先ほど既に尽きていたのである。


 だが何故いまも動き続けていられるのか? それはこの鋼鉄兵機には、非常用の予備動力として、搭乗者の保持する「光力」と呼ばれる生命力をエネルギーへと転換した力を、利用する機構が備わっているのである。

 

 これにより、万が一エネルギー切れの局面に陥ったとしても、搭乗者が健在であれば、ある程度は稼働することが可能である。だがそれは一方で、搭乗者の体力を相当に奪う諸刃の剣でもあった。


 この世界の住民たちは、おおむね、その「光力」を顕現する能力が生まれつき備わっているものの、流石に呼吸をするように転換するといった芸当は、ほんの一握りの者たちにしか出来ないわけで、つまり通常の者は、例えるならば、針の穴に糸を通すくらいの集中力をもって、光力を自らの内に紡ぎ出さなければならない。


 元来、その手の集中する作業がからっきし苦手なオセルにとっては、激しく消耗する作業なのであった。また当然、光力を生み出すごとに、身体にのしかかる疲労感もなまなかなものではない。


 よって現況は、全くもって芳しくない。いつ破綻するか分からない、オセルの頼りない集中力に支えられているのみなのであった。


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